悩み1「きょうだいがいなくてかわいそう」と言われる

和田秀樹『7歳までに知っておきたい!「ひとりっ子」の育て方』セレクション

更新日 2020.07.31
公開日 2015.06.12
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本当に、かわいそうなのかな?
「ひとりっ子なの? きょうだいがいなくてかわいそうね」
 ひとりっ子がしばしば言われる言葉です。そして、この言葉を聞くたびに、ひとりっ子のお母さんはカチンときたり、「そうかも…」とくよくよしたりしてしまいます。
 しかし、ひとりであることは、本当にかわいそうなものでしょうか。
 確かに、きょうだいがいた方が、話し相手にはなるでしょう。また、親のしつけがうまくいけば、きょうだいが互いに助け合うようにもなるでしょう。
 将来的なことを言えば、きょうだいがいれば、親の介護を分担できるかもしれません。ひとりっ子ならば自分しか介護役がいないわけですから、責任と負担の重さという意味では、「ひとりではかわいそう」と言っていいでしょう。
 しかしそれはすべて、「きょうだいの仲が良い」という前提があってのこと。きょうだいそれぞれが独自の個性を備えていて、きょうだい間にも相性があります。万が一、きょうだいの仲が悪かったとした場合、親御さんがどれだけ努力しても、できることに限界はあります。
 きょうだい仲が悪かったときには、ゆくゆくは「きょうだい地獄」となることだって、あり得るのです。

すべてのきょうだいが仲良しとは限らない
 これははるかに先の話になりますが、きょうだいの仲が悪ければ、介護ならば押しつけ合いになり、最後は遺産相続で泥沼の事態になります。どんなに仲が良いきょうだいでも、まずは自分の生活や権利が大切ですから、介護や相続はもめごとのタネ。それで仲が悪いとしたら、まさに地獄でしょう。
 特に子ども時代というのは、上の子が男の子であれば、圧倒的に強いものです。ただでさえ上の子が下の子を制圧しやすいのに加え、もしも上の子の癇が強かったり、発達障害を抱えて感情を制御しにくい状態であったら、どうなるでしょうか。
 クラスでいじめを受けたなら、学校を訴えられるし、いざとなれば逃げられます。きょうだい間では逃げ場はありませんから、悲惨としか言いようがありません。
 さらに、そういったきょうだい間の関係は、思春期以降も長く尾を引きます。決して大げさな話ではなく、素行の悪い兄が弟の貯金を勝手に使い込む、などということにもつながっていくのです。
 きょうだいとは、みな仲が良いもの――。そんな単純な話ではありませんし、根拠もありません。

●きょうだい間より、親子のコミュニケーションが重要
 より具体的に、考えてみましょう。
「ひとりはかわいそう」という意見は、きょうだいがいないひとりっ子は家庭内で子ども同士のコミュニケーションが取れないからだという論点に基づいています。
 これは、子どもの孤独を癒してくれるのはきょうだいだけ、という発想から生まれています。何となく「きょうだいで遊ばせておけばいいや」と思っているわけで、いわば、親と子のコミュニケーションを無視した発想です。
 きょうだいのコミュニケーションは、子ども同士のことですから、基本的に未熟です。
 特に男の子の兄弟の場合「力がある者が勝ち」の世界であり、上下の力関係が生まれます。下の子が「何くそ」と思える子なら見返してやろうとがんばりますが、そうでないと上の子の完全な支配下で自主性が削がれる可能性もあります。
 逆に、上の子が優しすぎる場合は、日常会話や遊びをすべて下の子のレベルに合わせてしまい、自分の本来の年齢にふさわしいことをしなくなる、といった事態が生じます。これでは、上の子が未熟になってしまいます。

●子どもコミュニケーションの場を作る
 このようなきょうだい関係は自然に生じるもので、解消するには親の介入が欠かせません。
 また、子どもというものは、ゼロから行動を起こして学びとることが難しく、親が経験させないことには何ひとつできません。「きょうだいがいれば人間関係の経験知が高まるだろう」というのは、勝手な思い込みにすぎないのです。
 つまり、ひとりっ子でもきょうだいっ子でも、より良い経験をさせたければ、そこにはしっかりとした親子コミュニケーションがなくてはならないのです。
 きょうだいがいなくて、コミュニケーション力がなくなるのが心配だったら、親がもっと話しかけてあげればいいでしょう。
 もし、「この子には子ども同士のコミュニケーションがもっと必要だ」と思ったなら、友達作りを促す対策を講じればいいことです。
 今はソーシャル・ネットワークなどで、手軽に友達とのコミュニケーションができます。また、学童クラブや塾、スポーツ教室など、「子どもが集まる場」はいくらでもあります。友達ができそうなサークルに入れてあげるということも可能でしょう。それで十分に、人間関係の経験を積むことはできるのです。
 きょうだい同士のコミュニケーションばかりを、あえて重視する必要はありません。

和田 秀樹 (わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。精神科医・教育評論家。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学等を専門とする。受験アドバイザーとしても精力的に活動し、志望校別勉強法の通信教育・緑鐵受験指導ゼミナールを主宰。東京大学をはじめとする難関大学に挑戦する受験生を指導している。映画初監督作品『受験のシンデレラ』がモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞するなど、文化面でも幅広く活躍中。

作品紹介

7歳までに知っておきたい!「ひとりっ子」の育て方

ひとりっ子の子育ては心配だらけに見えて、実はメリットが一杯です。「ひとりっ子でよかった!」と心の底から思える本。
定価:本体1,300円+税/学研プラス

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