工夫次第で脳の抑制は外すことができる。
とは言うものの、脳の抑制は、ほとんど無意識下で起こっているのが少々やっかいなところです。自分自身も気づかないうちに、脳が勝手に、やれないこと、やらないことをつくってしまうのです。
そこで大事なのが、あまり深く考えないことを習慣化することです。
習慣化のためには、「自分が何か特別なことをやっていると思わない」という「脳の脱抑制」が大事になってきます。特別なことをやっていると意識することで、脳が身構えてしまうからです。
話はやや横にそれますが、私はここ数年でジョギングを習慣化することに成功しました。その習慣化の結果として、先日、東京マラソンを完走することができました。
フルマラソンを完走したのは今回が初めてです。
その習慣化の成功要因は、まぎれもなくこの「脳の脱抑制」にあります。
「さぁ、ジョギングするぞ!」と特別なことをやろうと身構えてしまうと、その時点で脳に抑制がかかり、なかなか続きません。それよりも、あくまで自然体で何も考えずに、「散歩でもしに行こうか」くらいの感覚で続けることが望ましいのです。
脳の前頭葉には「努力するために使う回路」とも呼ぶべき部位があります。その回路が活性化されている状態が、一般的に「頑張っている」と呼ばれる状態です。
この「努力する回路」は意外なことに、何かを習慣化したり継続したりすることには向いていません。なぜならその回路はことのほか脳のエネルギーを消耗させるため、頑張り続けると疲れてしまうからです。
つまり、毎日「頑張るんだ」と意識し続けている人は、実は相当な脳への負荷がかかっているのです。
人間誰もが、火事場の馬鹿力で特別に頑張らなければいけないときがあります。それでいざことが済むと、どっと疲れが押し寄せてきます。
なぜなら、脳に大きな負担がかかってしまって疲れるわけです。毎日こんなことをしているようでは、当然、習慣として続けることはできません。
そう考えると、目の前の努力を「頑張る行為」と意識せず、何も意識せずに行えるよう「習慣化」することが成功への近道ということになります。
最初は努力、つまり強度のある負荷がかかっても、いつかそれを「当たり前の行為」へと変身させる。それが大事なポイントです。
自転車に乗るとき、こぎ出しが一番きついけれど、スピードに乗ってくればあとは楽になる。これと同じ境地を目指せばいいのです。
茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)
1962年東京生まれ。 東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。 専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。 2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』(ともに学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。
作品紹介
過重なストレスと処理すべきタスクに溢れた現代を生き抜くには「すぐやる脳」が必要だ!脳科学者・茂木健一郎流・行動力強化術。
定価:本体1,300円+税/学研プラス