自分も他者も大切にできる「自分中心」の生き方
前回のような「他者中心」の生き方とは反対に、自分の気持ちや感情を基準にして、自分を大事にする生き方を「自分中心」と呼んでいます。
その特徴は、自分を核として物事を捉えることです。
「自分を守るためにどうするか、自分を傷つけないためにどうするか、自分を愛するためにどうするか」と考える生き方なのです。
たとえば、もし母親が前記のように言葉巧みに娘をコントロールしようとしたときも、「自分中心」の娘であれば、
「お母さん、アドバイスありがとう。でも、私は、自分の力でやってみたいんだ。私が納得できるまで、やってみたいんだ」
などと、はっきりと言うことができるでしょう。
また、もし母親が前記のように、娘の「失敗」を、娘を支配するための道具に使ったとしても、それには乗らずに、
「私は、やってみてよかったと思ってるんだ。後悔はしていないよ」
と、きっぱりと言うことができるでしょう。
こんなふうに「自分中心」の視点に立ってはじめて、自分を大事にする場面、自分を愛する場面が具体的に見えてくるのです。
「自分を愛する」って、どういうこと?
私が家庭の問題についてアドバイスをするとき、どんなに意を尽くして理解してもらおうとしても、それが相談者にうまく伝わらないことがあります。けれども、それは相談者の理解力が足りないからではありません。
相談者の育った家庭環境が、一般的な家庭環境と極端に異なる場合、その家庭で見聞きした独自の「常識」が、自分の人生の基準になってしまいます。
自分の家庭環境と他の家庭環境とを比較するチャンスがなければ、どこがどうおかしいのかということも、きっとピンとこないでしょう。
たとえば、私たちは「愛」という言葉を知っています。だから、「自分を愛する」という言葉自体は、簡単に理解できるでしょう。
けれども、言葉でそう言うことはできても、実際にどうすれば自分を愛することになるのか、さっぱりわからない人もいるでしょう。
親が躾と称して子どもを叩いていれば、子どもは「叩かれること」も、愛情表情のひとつだと思い込んでいるかもしれません。いつも家庭で怒鳴られていれば、怒鳴られることも、愛情表現のひとつだと思うでしょう。
自分を大事にしましょうと言葉で言ったとしても、家庭で、親から大事にされた経験がなければ、どうしたらいいかわからないでしょう。
私が言いたい「自分を大事にする」ということの意味と、相談者が思う「自分を大事にする」ということの意味との隔たりが大きければ大きいほど、その意味は理解できなくなるはずです。
どんなにその方法を伝えようとしても、言葉というのは、それほど頼りないものでもあるのです。
「実演」で見えてくる、自分の愛し方
さて、ではどうすれば、自分を愛する方法が実感できるでしょうか。
そんなとき私は、自分の気持ちを伝えるための言葉の使い方、コミュニケーションのとり方、また態度や表情などを、ひとり芝居で実演してみせることがあります。
文字や理屈で伝えるよりも、実際に目の前で実演してみせたほうが、正確に伝わりやすいし、相手も納得できるからです。
リアルで具体的な場面の中には、実にたくさんの情報が含まれています。
「愛する」という意味を伝えたいとき、言葉で愛の意味を説明するよりは、相手を抱きしめたほうが早いときもあるでしょう。
相手が責めるような言い方をしたときでも、
「相手の否定的な言動に乗らないようにしましょう」
と抽象的にアドバイスするよりは、自分の気持ちを表現してその場を去る方法を、具体的に実演してみせたほうが、はるかに納得がいくでしょう。
次回、その方法を少しだけご紹介します。
石原 加受子 (いしはら かずこ)
心理カウンセラー。
「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。日本カウンセリング学会会員、日本学校メンタルヘルス学会会員、日本ヒーリングリラクセーション協会元理事、厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。 思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声などをトータルにとらえた独自の心理学をもとに、性格改善、親子関係、対人関係、健康に関するセミナー、グループ・ワーク、カウンセリング、 講演等を行い、心が楽になる方法、自分の才能を活かす生き方を提案している。
『母と娘の「しんどい関係」を見直す本』(学研プラス)、『仕事・人間関係「もう限界!」と思ったとき読む本』(KADOKAWA)、『わずらわしい人間関係に悩むあなたが「もう、やめていい」32のこと』( 日本文芸社)、『金持ち体質と貧乏体質』(KKベストセラーズ)など著書多数。
作品紹介
母親と娘が抱えるストレスの原因を解きほぐし、親子ともに「新たな人生」を歩むための工夫を人気カウンセラーが提案する。
定価:本体1,400円+税/学研プラス