美智子さまが服をお選びになるとき、まず大切にされているのは、「お出かけ先の事情を考える」ことです。
お会いになる相手が癒されること、あるいは喜ぶことは何かを思い描きながら、身につけるものをお選びになります。華やかな場なのか親善の場なのか、あるいは慰問の場なのかで、装いが変わります。
それは、公務先の事情を重んじて服を選ぶお気遣いの心。
皇室の方々は、ほぼ毎日行事や祭祀があり、私たちの想像以上にご多忙です。美智子さまは、つねにお出ましになる目的を十分に考慮されて、そのときどきに応じた装いで参加され、けっして派手に装われることはありません。
昭和四十一年から十年間、美智子さまの専属デザイナーをつとめた芦田淳さんに、インタビューしたことがあります。芦田さんは、美智子さまの服選びのご配慮について、こう言っています。
「美智子さまは、公式の場に出る洋服に対しては、非常に気を遣っていらっしゃいました。第一に、ご自分が目立つことを好まれませんでした。ほかの宮さま方、またお客さま方、その方々の洋服をこわさない色、つまりベージュをはじめとする淡い色を選ばれるなど、始終お考えになっていらっしゃいました。私はいつもそのご配慮に感心していました」
美智子さまは、お出かけ先の雰囲気を大切にされていました。
「たとえば、高齢者施設や児童施設にご訪問になるときは、特に気を遣われていました。高齢者施設には、どういう服を着ていくとお年寄りを喜ばせることができるか。
児童施設に行くときは明るい色の服がいいのか、きちんとした服がいいのか。いらっしゃる前によくお考えになって、相手がどう思うか、その場所で自分がどう装うか、と考えておしゃれなさるのです。
美智子さまの場合、どういう色を着ていったら喜んでもらえるか、あるいは、悲しみに沈んでいる人には、どういう色を着ていったら、その悲しみを少しでもやわらげたり、慰めたりできるかと、ともかく相手のことばかりお考えになりました」
美智子さまのファッションには、相手のことを慮る気持ちが表れています。
自分の好みや都合よりも、まずお出かけ先の事情を考え、相手の笑顔を思い浮かべる――。
それは「心のエレガンス」であり、人に対するやさしいマナーといえるでしょう。
渡邉 みどり (わたなべ みどり)
ジャーナリスト、文化学園大学客員教授。 1934年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、日本テレビ放送網入社。報道情報系番組を担当(婦人ニュース・ワイドショー・木曜スペシャル)。 1980年、担当ドキュメント番組「がんばれ太・平・洋 新しい旅立ち! 三つ子15 年の成長記録」で日本民間放送連盟賞テレビ社会部門最優秀賞受賞。昭和天皇崩御報道のチーフプロデューサー、副理事。1995年、『愛新覚羅浩の生涯』(読売新聞社)で第15回日本文芸大賞特別賞受賞。 近著に、『写真集 美智子さまのお着物』(木村孝との共著 朝日新聞出版)、『日本人でよかったと思える 美智子さま 38のいい話』(朝日新聞出版)、『美智子さま 美しきひと』(いきいき)、『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(共にこう書房)、『とっておきの美智子さま』(監修 マガジンハウス)など。
作品紹介
日本女性としてお手本にしたい、皇后・美智子さまのエレガンス(気品)の秘密を、とっておきの写真とエピソードで紹介します。
定価:本体1,400円+税/学研プラス