子育てのさなかも「ライフワーク」を大切に

渡邉みどり『美智子さまに学ぶエレガンス』セレクション

更新日 2020.07.31
公開日 2017.10.17
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 聖心女子大学文学部外国語外国文学科四年生になられたとき、美智子さまは、全学の学生自治会の会長(プレジデント)に選ばれました。
 聖心女子大学には当時、優秀な学生をたたえる「オナー(Honor)」制度がありました。全科目がAかB、平均九十点以上の学生が「オナー」と呼ばれ、毎学期末に学長室前にリストが貼り出されます。美智子さまは、「オナー」に四回選ばれています。
 美智子さまのクラスメイトのひとりは、こう話しています。
「美智子さまの立派さといえば、あれもできる、これもできる。お美しくておやさしくて……と世間ではほめあげてしまいますが、私はそうではないと思うんです。試験のときだけものすごく勉強して試験が終わったら遊んでしまうという、そんなエセ努力家ではなくて、美智子さまは毎日たゆまない努力をなさる方なんです。周囲の人はそれに気づかず、結果だけを見て、驚いたり感心したりして『天才だ』で片づけてしまうのです」
 
 美智子さまは、大学卒業後はご両親の希望もあってか、それ以上の学問の道には進まれませんでした。そのかわり、少女期から詩や文学に親しんできた児童文学の研究を始められました。その理由を婚約直前、こう話されました。
「児童文学というのは、人生のいろいろな物事を、子どもたちに肯定的な目で見させるように扱っています。そうした人生態度、人間の見方に私は共感を覚えるのです。
 また、児童文学なら結婚して子どもができてからでも、言い訳は立つし、女性は一生やっていい仕事だと思ったからです」
 一生やっていい仕事――。こんなところにも、粘り強く努力家の美智子さまの素顔がうかがえます。

 平成十年九月二十一日には、美智子さまは、インドのニューデリーで開かれた第二十六回IBBY(国際児童図書評議会)世界大会で、ビデオによる基調講演をなさいました。詩人のまど・みちお氏が「国際アンデルセン賞」を受賞。その詩二十編を、美智子さまが翻訳されたことが、講演のきっかけとなりました。
 本来ならば現地で講演なさる予定でしたが、直前に開催国のインドが核実験を敢行。国際的な情勢を鑑み、ビデオでの出演となった経緯があります。
 美智子さまにとって、ビデオ収録は初めてのことでした。大会では英語版が上映され、日本語版は同日夜、NHK教育テレビで放映されました。事前予告がなかったにもかかわらず、視聴率は教育テレビで過去最高を記録し、再放送も行われました。
 この講演は、『橋をかける――子供時代の読書の思い出』(すえもりブックス刊/のちに文春文庫)として出版され、ベストセラーとなっています。
 

 美智子さまは、お忙しいご公務や子育てのさなかにも、児童文学の研究の時間を大切にしてこられました。そういった「ライフワーク」が、美智子さまの心の潤いになっていたと思われます。

渡邉 みどり (わたなべ みどり)
ジャーナリスト、文化学園大学客員教授。 1934年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、日本テレビ放送網入社。報道情報系番組を担当(婦人ニュース・ワイドショー・木曜スペシャル)。 1980年、担当ドキュメント番組「がんばれ太・平・洋 新しい旅立ち! 三つ子15 年の成長記録」で日本民間放送連盟賞テレビ社会部門最優秀賞受賞。昭和天皇崩御報道のチーフプロデューサー、副理事。1995年、『愛新覚羅浩の生涯』(読売新聞社)で第15回日本文芸大賞特別賞受賞。 近著に、『写真集 美智子さまのお着物』(木村孝との共著 朝日新聞出版)、『日本人でよかったと思える 美智子さま 38のいい話』(朝日新聞出版)、『美智子さま 美しきひと』(いきいき)、『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(共にこう書房)、『とっておきの美智子さま』(監修 マガジンハウス)など。

作品紹介

美智子さまに学ぶエレガンス

日本女性としてお手本にしたい、皇后・美智子さまのエレガンス(気品)の秘密を、とっておきの写真とエピソードで紹介します。
定価:本体1,400円+税/学研プラス

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