●愛情を独り占めできるひとりっ子
ひとりっ子のお母さんは、「ひとりっ子はきょうだい経験が得られない」ということを深刻にとらえがちです。
しかし、経験面で不利なところがあるのは、ひとりっ子に限りません。きょうだいっ子にも、不利な部分があります。
たとえば、下の子が生まれたとき、上の子は必ず「母親の愛情を奪われる」という辛い体験を味わいます。この心の傷を癒すには、「私はあなたを今までどおりたっぷり愛しているんだよ」という気持ちを、お母さんが上の子に対して、過剰なまでに示さなければなりません。
これは見方を変えれば、お母さんがそのような対策を講じなければいけないほど、上の子が強いショックを受けやすい、ということでもあるわけです。
このときの対応を誤ると、上の子はその後もずっと、下の子に対する嫉妬を引きずり続けます。不思議ですね、きょうだい仲を悪くする要因が、実は、「きょうだいができた」ということに端を発しているわけですから。
きょうだいっ子はまた、親の愛情を十分に受けづらい面があります。
どのお母さんに与えられた時間も、一日あたり24時間。それをきょうだいが複数で分け合うのですから、愛情の総量としては、ひとりっ子の方がはるかに多いでしょう。
専業主婦の家の2人きょうだいの子と、働いている母親のひとりっ子を比べても、親が子どもにかける時間は、ひとりっ子の方が多いのではないでしょうか。
親の愛情を独占できるという点で、ひとりっ子はずいぶん有利なのです。
●過保護は愛情の証
一方でこの有利さは、ひとりっ子のお母さんに「甘やかしすぎではないか」という不安をもたらします。
しかし過保護というものは、十分な愛情を与えているという点で、世の中で言われるほどに悪いことではありません。
以前は、「子どもには厳しく接し、適当なフラストレーションを感じさせた方がいい」という教育論が優勢でした。しかし今は違います。
愛情不足になって人格に問題が生じるくらいなら、過保護で甘やかしすぎの方がずっといい、という考えに変わってきているのです。
確かにひとりっ子は過干渉になりやすい環境にあるかもしれませんが、だからといって「愛情の量が多すぎるのではないか」と悩む必要はありません。
むしろ問題は、愛情の質です。
甘やかしてワガママになるのが心配なら、その分、しっかりとしつけをすればいいだけの話です。ひとりっ子だからワガママなのではなく、親がしつけをしないから、ワガママなのです。
和田 秀樹 (わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。精神科医・教育評論家。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学等を専門とする。受験アドバイザーとしても精力的に活動し、志望校別勉強法の通信教育・緑鐵受験指導ゼミナールを主宰。東京大学をはじめとする難関大学に挑戦する受験生を指導している。映画初監督作品『受験のシンデレラ』がモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞するなど、文化面でも幅広く活躍中。
作品紹介
ひとりっ子の子育ては心配だらけに見えて、実はメリットが一杯です。「ひとりっ子でよかった!」と心の底から思える本。
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- 色眼鏡2 「ひとりっ子はワガママ」は本当?
- 色眼鏡1 「ひとりっ子は友達作りが苦手」は本当?
- ひとりっ子への 「色眼鏡」に対抗する方法
- ひとりっ子を心配する前に、 まずやっておくべきこと
- 良いところもあれば、 悪いところもある
- 悩み3 親として経験が足りないのではないか
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- ひとりっ子でよかった!