――前回から続く。
この出来事を脳科学的に表すならば、「パーフェクトストーム」と呼ぶべき脳の興奮状態ということができるでしょう。
人間の脳とは、誰かに褒められたり、他人に認められたりすると、ドーパミンが湧き出て「脳の強化学習」が引き起こされるのです。これは特に、幼少期の子どもに顕著に現れます。
脳は高い負荷をかけて力を注ぐほど、人から褒められるという事実に反応します。
そしてその結果として、パフォーマンスの精度が向上します。つまり、こうして脳に褒められるという報酬を与えることこそが脳の強化学習であり、楽しみながら脳への負荷をかけるために最も有効な方法なのです。
私はたびたび保育園や幼稚園の先生、あるいは小学校の先生を相手に講演する機会がありますが、いつも次のようにお願いをしています。
「子どもたちがいままでやったことのないことに取り組み始めたら、ぜひ、間髪入れずにその行為を褒めてあげてください。それによって先生は、子どもの脳に“奇跡”を起こすことができるのです!」
たとえ年に一回でも、子どものそうした小さなチャレンジを褒めてあげることができたなら、その子の脳はそこで自分に負荷をかける楽しみや喜びを知ります。
そして、目標に向かって根気よく、小さなチャレンジを積み重ねていく習慣を手に入れるのです。
子どもでも大人でも、重要なのは「いまは辛いけれど、脳に負荷をかければきっといいことが待っているんだ」という、報酬への期待感を持つことです。
もちろん、大人になれば他人はそんなに褒めてはくれませんから、報酬のパターン、つまり「自分なりのごほうび」をつくっておくこと。それこそが、脳に“楽しい負荷”をかけ、それを楽しみながら成功するための秘訣でもあるのです。
(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。4回目の次回は6月1日掲載予定です。)
茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)
1962年東京生まれ。 東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。 専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。 2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』(ともに学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。
作品紹介
勉強、ダイエット…”続かない人”必読!読むだけで「やり抜く力」が湧いてくる!脳科学者・茂木健一郎の大人気シリーズ第3弾!
定価:本体1,300円+税/学研プラス
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