「上には上がある」という体験が 成長のモチベーションになる!
茂木健一郎『IQも才能もぶっとばせ!やり抜く脳の鍛え方』セレクション
――前回から続く。
たとえば読者の皆さんの中には、子どもに早い段階から英語を勉強させようと、英会話教室に連れていく親御さんもいらっしゃることと思います。
ここで重視するべきなのは、英語を学ぶ喜びをシンプルに体験させることだと思いますが、それ以上に大切なのは、英語で楽しそうにコミュニケーションをとっている先生や友達と触れ合うことにより、何事も「上には上がある」ということを体験させることなのです。
私の「蝶体験」同様に、これこそが「やり抜く脳」を育てるうえでの大事なポイントだと思います。
単なるお受験に向けた英語学習にとどまらず、本格的な英語を体験させることで、子どもの脳内に「パーフェクトストーム」を起こす。「すごい!」「楽しい!」という強い感動と衝撃により、脳の中にやり抜く欲求が生まれるのです。
最初のうちは、ABCというアルファベットを覚えることから始まり、片言の英語を話せるようになる。その次は英語の本や映画を字幕なしで観れるようになる。そして英語のスピーチができるようになって、ネイティブと対等に話せるようになる。
こうして英語を学ぶということにも、いろいろなレベルがあるということを、子どものうちから知っていくことで、素直な向上心が生まれるでしょう。
また、子どもにサッカーを習わせている親御さんであれば、現代サッカー界の最高峰に君臨する、リオネル・メッシ選手のプレー映像を見せてあげることなどもいいでしょう。そしてそれとともに、まさに「やり抜く脳」ともいうべき粘り強い努力を続けて成長を遂げた、彼の生い立ちを話してあげてほしいと思います。
メッシ選手は子どもの頃、「成長ホルモン分泌不全性低身長症」という難病にかかっていることを知らされました。
この病気には、成長ホルモンの分泌量が少なく成長期に身長が伸びない、という症状があり、サッカー選手としては大きなハンディキャップです。
けれども彼はいま、それをはねのけながら、世界最高のサッカー選手として活躍しているのです。
このように、子どもの「やり抜く脳」を鍛えるうえで、偉人や成功者の伝記やドキュメンタリーを読んであげることは、とてもいい効果を生み出します。
私自身も、相対性理論を生み出したノーベル物理学者のアインシュタインの偉人伝を読んでとても勇気づけられ、これからの人生をどう生きていけばいいか、そのセオリーを学んだように思います。
アインシュタインが、自分自身に数学の才能がないと気づいて失意の底に落ちたこと。大学の教授から推薦が得られず、いったんは学者の道が閉ざされたこと。こうした逆境にも負けず、自分だけの目標に向かって粘り強く研究を続け、ついには相対性理論を発見したこと……。
彼の苦難と挑戦の人生から、こうした数多くの逸話を小学校の低学年で知ったことが、私が科学の道へと進んだきっかけのひとつです。
このように「未知の出会いで青天井を知る」ということは、何事においてもあきらめずに最後までやり抜くための習慣づくりにとても有効だといえるのです。
(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。6回目の次回は6月15日掲載予定です。)
茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)
1962年東京生まれ。 東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。 専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。 2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』(ともに学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。
作品紹介
勉強、ダイエット…”続かない人”必読!読むだけで「やり抜く力」が湧いてくる!脳科学者・茂木健一郎の大人気シリーズ第3弾!
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
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