三日坊主になりやすい人は 「T字型人間」になれ!

茂木健一郎『IQも才能もぶっとばせ!やり抜く脳の鍛え方』セレクション

更新日 2020.07.29
公開日 2017.06.22
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 作家の村上春樹さんは、自らの創作活動を「井戸を掘ること」にたとえていらっしゃいます。自分の心の底に向かって、長い時間をかけ、ひたすら集中して、深く深く掘り進み、予想もしなかった作品世界を自分の脳の中に掘り起こしていく……。非常に上手なたとえではないかと思います。 

 この井戸を掘ることは、アルファベットの「I」の字のように、垂直に掘り進むだけの行為に思われるかもしれませんが、実は違います。
 物事を深く考え、掘り下げていく行為の裏には、思考の力だけではなく、幅広い知識や見識が求められるものです。ちょうど画びょうのように、垂直に降りていく思考という一本の針があり、そこを支える広い平面が知識見識という具合です。
 村上さんに限らず、物事を極めていくためには一直線に進む思考力・行動力と同時に、それを支える幅広い経験と知識見識が必要だと私は思うのです。
 私はこのように、縦と横の両方のベクトルで物事をやり抜いていける人のことを「T字型人間」と呼んでいます。
 画びょうを下向きにして横から見た時、ちょうどT字に見えますよね? 画びょうをしっかり刺すためには、広がった部分がなければ深く差すことはできません。これと同様に、何かをやり抜くためには、ただ井戸を掘るように前に進むだけではなく、さまざまな多様性を探りながら、脳のバランスを取っていかなければならないということです。
 このT字型人間になることこそが、何かをやり抜いて大きな結果を出すためには必要不可欠なのです。
 村上さんに限らず、たとえば伝統工芸の職人さんにも共通のものを感じます。
 テレビでたびたび、職人さんの日常を追ったドキュメンタリー番組などがオンエアされるのをご覧になった方も多いでしょう。そうした番組では多くの場合、取材対象の「この道一筋何十年」といった側面ばかりを強調しますが、実際にお話を伺ってみると、たいていの場合、そのイメージとは異なった意外な一面を持ち合わせています。
 たとえば「漆うるし塗ぬ りの名人」といわれる職人さんがいたとしましょう。
 実は意外なことに、そんな職人さんほど、この道一筋というイメージから遠い生活を送っています。四六時中、漆塗りばかりをやっているのではなく、芸術鑑賞や旅に出るなど、多くの時間を自分の幅を広げることに使っておられます。
 さまざまなことにアンテナを張り巡らせ、新しいアイデアを得ることや人脈を広げることに積極的な人がほとんどです。
 T字の縦軸として漆塗りを深く追求しながら、同時に、横軸として幅広い知識見識も熱心に追及している。つまり、物事をやり抜くには、この横軸が必要不可欠であるということです。思考力や行動力、教養をきちんと備えているからこそ、自分の専門領域に奥深く進むことができるというわけです。

――次回に続く。

(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。8回目の次回は6月29日掲載予定です。)

 

茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。 東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。 専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。 2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』(ともに学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。

 

作品紹介

IQも才能もぶっとばせ!やり抜く脳の鍛え方

勉強、ダイエット…”続かない人”必読!読むだけで「やり抜く力」が湧いてくる!脳科学者・茂木健一郎の大人気シリーズ第3弾!
定価:本体1,300円+税/学研プラス

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