「本屋さんと選書」 双子のライオン堂 竹田信弥さん 第5回

本屋さんのココ【第5回】「本屋さんと選書」双子のライオン堂

更新日 2020.08.06
公開日 2015.06.03
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「本屋さんのココ」、第4回のテーマは「本屋さんと選書」。東京都文京区白山にある「双子のライオン堂」に伺いました。

 双子のライオン堂は2013年に店主の竹田信弥さんが始めた、新しい本屋さん。その特徴は「選書」専門店であること。店には辻原登、山城むつみ、東浩紀、など、著名な批評家、小説家の選書した本が並びます。
(双子のライオン堂、選書者の一部→ http://liondo.jp/?page_id=23

 なぜ「選書」専門店のスタイルが生まれたんでしょうか。また、本屋さんが減っている、と言われるなかでどうして、そしてどうやって双子のライオン堂をオープンしたんでしょうか。しかも最近、双子のライオン堂で「本屋入門」という本屋さんのための講座も行っているようなのです。これは話を聞きに行かないと!

 今回は、講座「本屋入門」の共同企画者でもあり、本屋をもっと楽しむポータルサイト「BOOKSHOP LOVER」を運営していて、竹田さんとも親交の深い和氣正幸さんをお呼びし、一緒にお話を伺ってきました。

「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。

取材日:2015年2月28日

取材:和氣正幸、松井祐輔

構成、写真:松井祐輔

 【店舗情報】

双子のライオン堂
〒113-0001
東京都文京区白山1-3-6

営業日:毎週火曜日、土曜日 13:00〜21:00

松井:「BOOKSHOP LOVER」のコラムでも、

『見つけた未来の書店の片隅で、私はひっそり文学の復興に力を注ぎたいと夢見ています。文学の現状は、書店のそれと同じです。書店も文学もたくさん利用されて(読まれて)揉まれて磨かれて、良くなっていくものなのです。そのため、受け手を増やす取組――作家と読者が膝を突き合わせて話し合う環境を作ったり、文学の魅力を親身になって案内したり――を行っていきたいです。だからこそ、書店を残したいのです』

ということを書いていました。僕はこの言葉がすごく印象的だったんですよ。

竹田:やっぱり本を書いたり、売っていて、それだけじゃ生活できないって悲しいですよね。本や本屋のビジネス自体に新規性はないかもしれないけど、だからこそ一人でもその答えを見つけられないか、と思っているんです。それは和氣さんとやっている「本屋入門」(※)につながっていく発想なんです。それで正解が出せるかはわからないけど、とにかく本屋をやりたい人が集まって、なんでもやってみる。いまの出版業界って余力がないんですよね。

「本屋入門」:双子のライオン堂で開催された、少数精鋭でつくり上げる「あたらしい本屋」をつくるゼミ。講座で出たアイデアは「双子のジャンク堂」と銘打って、ライオン堂店内で実施された。

松井:お金や人的な余裕がない、ということですね。

竹田:お金もないし、出版自体の未来が明るくないので、積極的なチャレンジができない。特に本屋がそういう状況じゃないかと思うんです。そこで思いつくアイデアは、小さくてもいいからとにかく何でもやってみよう、と。

松井:業界としてビジネスにならなくても、まずは個人レベルでやってみる、と。

竹田:少しでもアイデアを持っている人を僕と和氣さんですくい上げて、チャレンジしてもらう。僕がそうやってライオン堂を始めたみたいに、とにかくやってみる。それが「本屋入門」のキモなんです。

和氣:最初に話していたのは、「とにかくやろう」ということ。まずは講義形式で全体の知識を合わせて、そのあと“必ず”形にする。そういうスタイルで始めました。

竹田:本屋の集まりとか、トークイベントってたくさんありますし、そこでいろんなアイデアも出るんですが、実際にそのアイデアを実行する人って少ないですよね。だからまず、どんなバカみたいな企画でもやっちゃおう、という趣旨でスタートしたんです。みなさんがやれない理由もわかるんです。お金はもちろんだけど場所もそうだし、サラリーマンで家族を支えないといけないとか、家庭の事情もそう。そういう中で僕にはライオン堂という場所があったし、僕自身は他の仕事をしながらですが、生活はできている。そういう状況が重なった時に、最低限「本屋という場所」はライオン堂が支えるから、その場所を使ってチャレンジしてほしい、と。やっぱりトライ&エラーが重要だと思うんです。一つ一つは大きなアイデアじゃなくても、それを100個やれば、何かすごい企画につながるかもしれない。そういう中から将来の本屋を更新するようなアイデアが出てくるんだと思うんです。

和氣:僕も全国の本屋を回っていて、いろんな動きが出てきているのは感じています。でもいま出回っている情報って、エラーの部分ばかりが強調されているような気がするんですよ。

松井:確かにそうですね。僕も「本は売れない」という状況ばかりが先行して伝えられている気がします。あるいは成功事例というか、こういう独立した本屋が素敵、という紹介が多くて、その内実とか、いわゆる「素敵な本屋」になるまでのプロセスの部分が語られていないんじゃないかと。

・双子のジャンク堂:「この本屋さんがすごい!」

竹田:そういう実践やアイデアはもっと晒されたほうがいいと思うんです。僕は、いままでそういう事例が少ないのも、「本」自体が高尚なもの、という意識の影響でもあると思います。本屋にとって本は大切なものではあるけれど、果たして「本屋」は今のままで正解なのだろうか、というところですよね。

和氣:本はすごいけど、別に本屋は偉くないんじゃないかってこと?

竹田:そもそも、本もそんなに高尚なものなのか、という所でもあるんだけど(笑)。

松井:本が好きとか、この本がすごい、という感情が先行してしまって、ある意味で実験的なアイデアが少なくなってしまっている、ということかもしれないですね。「こんなすごい本に対して、失礼なことはできない!」という感じで、本を敬うあまり発想が形式的になってしまう、というか。

和氣:そこで僕らが小さなことでも実践して、そのストックを残しておけば、他の人の参考にもなると思うんです。それに扱うものは本だけじゃなくても良くて、「本」にこだわりはするけど、もっと自由な発想で「本屋」をやる、というか。

松井:今までの「良い本屋」が、これからも本当に「良い本屋」なのだろうか、という考えもありますよね。そこで「本」に関わるという意味で、広く「本屋」を捉える。

和氣:そういう発想で、とにかくいろいろ新しいことをやっていこう、と。

双子のジャンク堂:「ラノベ×文学」

【ライオン堂を使って、好きなことをやってほしいんです】

竹田:実践されるアイデアの中には、客観的に見ると既存のアイデアの焼き直しや小さな取り組みもあると思います。でもそれよりも、そのアイデアが思いつきだけじゃ終わらずに実践されたかが、重要なんです。やっぱり「晒される」ということが大切で、そうなって初めて客観視できるし、改めて考えることができる。

実践することの意味ってそこだと思うんです。他にも、実践することによって応援してもらったり、他のアイデアをもらえたり。そこに何かが付加されるわけですよね。そうなってはじめてバージョンが変わる、良くなっていく。

・双子のジャンク堂:「まわる本屋」



回転寿しでついネタを手に取ってしまうように、回転すれば本もつい手に取ってしまうのではないか、という「まわる本屋」。走る鉄道模型に引かれて、手製のトロッコに載った本がまわる。

和氣:インターネット的な発想でもあるよね。本屋のオープンソース化、というか。

竹田:ブックカフェとか、雑貨の複合店ってありますけど、それは足し算の発想で、バージョンで言うと1.1とか、1.2の段階だと思うんです。そうじゃなくてバージョンが上がる。本屋2.0になるには、レイヤーを変えていかないといけない。僕もまだ答えを見つけていないですが、だからこそ、新しいことにたくさんチャレンジしてほしいんです。

和氣:ライオン堂を使って、好きなことをやって欲しいんですよ(笑)。それが蓄積されていって、本屋入門をプラットフォームにいろんな人がトライ&エラーを積み重ねて、本屋をアップデートしていく。そんなイメージがあるんです。

竹田:そうやってトライし続けて、ライオン堂も100年を目指す。本屋入門も続けながら、新しい本屋のステップが見えてくればと思っています。

双子のジャンク堂:「お風呂本屋〜湯と本をいっぺんに楽しむ方法〜」

松井:実際に講座をやってみて、どうですか。

竹田:本屋入門やっていて思うのは、「読者目線」の大切さですね。読む側は何を考えて読んでいるのかとか、こんな本が欲しいとか、読者が思うようなことがまずは大切なんだ、と。

和氣:講座を続けていくと、出発点が「読者」になっていて、次に「ビジネス」のこと、その次が「本」のことになっていくんです。それが面白いよね。

松井:起点が「本」ありきではないんですね。

竹田:本屋ってどうやってもビジネスだから、お客さん視点にならないといけないんですよね。でもそこで、「このすごい本が」って本のことを中心に考えてしまうと、何か勘違いが生まれてしまう気がして。だからライオン堂では「本」も「著者」も「読者」もフラットな関係を作っていきたいんです。

松井:その考え、僕もすごく共感できます。でもあえて竹田さんに聞きたいんですが、竹田さん自身はすごく本が好きだし、読んでもいますよね。いち読者としての本に対する感情といまの話って矛盾はしませんか。

竹田:そこに断絶はあまり感じないんですよね。例えば著者の話を聞いたら、もっと作品について話したいと思いますよね。だからそういう関係をつないで、みんなで本や本屋のことを良くしていこう、という気持ちがあるんです。本や著者のことはもちろん尊敬しているんですが、崇めるわけではない、というか。

そこで盲目的にならないで、ツールとして使っていかないと。文学だって、そういう意味では生きるためのツールですから。だから本は崇めるものじゃなくて、友達なんです。神様や先生みたいなものじゃなくて、友達。そこから未来が見えてくるんだと思っています。

取材後、竹田さん、和氣さんで記念撮影

【了】

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

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