「本屋さんとフェア」 マルノウチリーディングスタイル 北田博充さん 第3回

本屋さんのココ【第4回】「本屋さんとフェア」マルノウチリーディングスタイル

更新日 2020.07.20
公開日 2015.01.23
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「本屋さんのココ」、第3回のテーマは「本屋さんとフェア」。今回お伺いしたのはマルノウチリーディングスタイル。1月1日から12月31日まで、それぞれの日に誕生日を迎える作家の本を集めた「BIRTHDAY BUNKO」や、70種類の心の症状に合わせて薬として本を処方する「ビブリオセラピー」など、独自のフェアが魅力的な本屋さんです。また、カフェを併設し、雑貨も積極的に扱うなど、本屋さんとして、新しい取り組みも積極的に行っています。今回は秋山史織さんと一緒に、マルノウチリーディングスタイル、マネージャーの北田博充さんにお話を伺いました。

独自のフェアを作る発想や、お客さんの反応、運営の苦労話まで。僕たち自身もお店を楽しみながらも、しっかりと「本を売る思い」をお聞きしてきました。

「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。

取材日:2014年11月24日

取材:松井祐輔、秋山史織
写真:片山菜緒子

構成:松井祐輔

【店舗情報】

マルノウチリーディングスタイル
〒100-7004
東京都千代田区丸の内2-7-2
JPタワー4F
電話:03-6256-0830
営業時間:月〜土11:00〜21:00
     日・祝11:00〜20:00(祝前日は〜21:00)

定休日:不定休

秋山:北田さんは最初に取次である大阪屋に入られて、ずっと取次の仕事をされてきたんですね。リーディングスタイルで書店の仕事をすることになって、苦労することはなかったですか?

北田:実際のところ、僕自身の感覚は変わっていないんです。もちろん本自体に触れる機会は増えましたが、学生の時から書店でアルバイトをしていたこともあったし、取次での仕事も営業として新規店舗の立ち上げをたくさん経験したんです。そういう経験もあったので、抵抗なく書店の仕事に入っていけた部分がありますね。

仕事の違いがあったとしたら「視点」でしょうか。エンドユーザーであるお客さんと直接に接することができることが一番違います。それと棚の移り変わりを毎日見られること。棚も日々変わっていくもので、その棚の移り変わりが直接見られるのは楽しいですね。

 

松井:選書の感覚はどうですか。取次の仕事はあらゆる種類の本を書店に適切に供給する仕事。書店の選書はさらにその中から適切な本を選ぶ仕事です。

北田:確かに仕事が違うと言えば違いますが、もともと本が好きなので(笑)。実は僕が企画しているフェアって「本の内容を知らなくてもできるフェア」なんです。

「BIRTHDAY BUNKO」は著者の誕生日を丁寧に調べれば誰でも選書できるし、「飾り窓」も本の紹介文だけを読んで、それがおもしろそうな本を選べばいい。実はそこまで読書量や選書能力は必要ないんですよ。ただ、そういうフェアが2回続いて、自分の中で物足りなかった、というか(笑)。汎用性とか、10人にいたら10人に伝わる、という意味ではそれでも良かったんですが、作り手の人格が表に出ないフェアでもあった気がして。

だから次は「ビブリオセラピー」をやろうと思ったんです。これは症状に合わせて本を選ぶので、当然読んでいないと選書できない。しっかりとした選書能力が問われるフェアなんです。それに自分の力だけじゃなくて他の方とも一緒にやりたいと思い、立川にある書店「オリオンパピルス」さんにお声がけして共同で実現しました。

本のプレゼントを増やすには?

松井:そもそも「BIRTHDAY BUNKO」のような企画をやろうと思ったきっかけは何だったんですか。

北田:実はずいぶん前からこういう企画をやりたかったんです。最初のきっかけは「プレゼント」でした。「普段本を読まない人がどうやったら本を手に取ってもらえるか」という課題を考えたとき、誰かにプレゼントしてもらうといいんじゃないかと思ったんです。

雑貨ってよく人にプレゼントしますよね。でも「本」を人にプレゼントするのは抵抗感があるじゃないですか。なんだか押し付けがましい気がするし、内容が相手に合うかどうかもわからない。でも「BIRTHDAY BUNKO」のような「その人の誕生日に生まれた作家の本」だったら内容に関わらずプレゼントしやすいだろうな、と思って。

本のプレゼント需要をどうやったら広げられるか、と考えていたときに思いついた企画です。実は僕、昔からネタ帳を付けているんです。そのネタ帳を振り返ってみたら7〜8年前に思いついたネタでした。昔から暖めているアイデアが多いんですよ。「ビブリオセラピー」も昔から考えていたネタですね。それこそ取次として異業種への本の営業を考えたときに「ドラッグストアに卸すにはどういう形がいいんだろう」と考えた企画のアレンジです。

12月にオープンするsolid&liquid 天神では「ブックバーガー」という企画をやります(※取材時はオープン前。現在はsolid&liquid 天神で開催中)。本のタイトルを隠して、本に出てくる「料理」とその「料理が出てくる場面の一文」だけを頼りに本を選んでもらう企画です。これをカフェでドリンクをセットにして販売します。それも異業種への営業でカフェに本を卸すならどうしよう、と考えたときのアイデアを自分で実践しています。だから今やっている企画も、昔からずっと考えていたネタなんです。

秋山:「ブックバーガー」面白そうです!

北田:内沼晋太郎さんの企画で以前、青山のスパイラルカフェで文庫本セットを売っていましたよね(本の一節を見ながら、ケーキの代わりに文庫本とドリンクをセットで注文するという企画。2009年に期間限定で開催。)。それをヒントにしながら、それ以上に本自体でお腹を空かせてもらおう、という企画です。もう70メニュー分できていて、月代わりで3メニューずつ出していく予定です。

松井:すでに2年分くらいできてますね(笑)。

ちゃんと「手間」をかける

秋山:他にも、さっき売り場を見ていたら「マルノウチサディスティック」というコーナーがあって、すごく面白いフェアだと思いました。何か企画意図があったんですか。

 

北田:基本的に思いつきです(笑)。「マルノウチサディスティック」は「日本で初めてお客さんにサディスティックなことをしよう」というフェアなんです(※現在は終了)。重すぎて持ち帰れないとか、高すぎて買えないとか。難しすぎて読めない、とか。そういう精神的にサディスティックな体験をお客さんに与えよう、というフェアです。考え方がおかしいですよね(笑)。

秋山:「お客さんに重いものを持たせよう」という発想がすごく面白いです。

北田:実はみんな、あんまり乗り気じゃなかったんですけどね。僕が企画を通しちゃったんですよ(笑)。

松井:その企画を通す北田さんも、それを通してしまう環境もすごいと思います。「マルノウチサディスティック」だけじゃなくて、「BIRTHDAY BUNKO」も選書したあと全部の本にカバーをかけて袋づめする手間もかかりますよね。「飾り窓」も文庫のレーベルごとに解説のレイアウトが違うじゃないですか。

北田:そうなんですよ……。

松井:だから「飾り窓」のカバーって一種類じゃなくて、文庫レーベルに合わせて何種類もありますよね。何種類もカバーを作って、一つ一つカバーをかけて、そして窓の部分から解説が見えるように全部カットするわけですよね。

 

北田:普通のカッターで切っています。作業はスタッフみんなでやっていますね。おっしゃる通り大変なんですよ。「BIRTHDAY BUNKO」もカバーレイアウトで背表紙に日付と著者の名前が入っているんですが、本の背表紙って全部幅が違うじゃないですか。だから365種類の本の幅を測って、なんども試し刷りを繰り返して、やっとカバーデザインが決まるんです。

実際にやると、途中からめまいがしてきますよ(笑)。カバーを付ける作業だけに時間がかかるんじゃなくて、前準備にもすごい時間をかけているんです。だから手間ばかりかかっていますね(笑)。

松井:その「手間」をかけちゃうところがすごいな、と。そういうことってコストとか、作業時間の関係でやりたくてもできないところが多いと思うんです。だから発想が面白いというのと同時に、誰もかけたことがないような手間をかけている。そこがすごい。

北田:「手間」しかかけるものがないですから。僕ら自身に高い能力があるわけではないので、地道に頑張るしかないんですよ。

松井:そんなことは思ってないですけど……。でも「手間」をかけないと良いものはできない、とは思います。

北田:それは本当にそうですね。そういうことってお客さんにも伝わりますよね。手間をかければ伝わりますし、逆に適当にやったことも伝わる。それに無作為に手間をかけているわけでもないんです。今って書店で良い本を見つけても、かさばったり重かったりするとWebで買っちゃいますよね。それでも本を書店で買うのは、すごくその書店が好きでそこで買いたいと思ってもらうか、あるいは「そこでしか買えないもの」を作るしかない。

リーディングスタイルの場合「そこでしか買えないもの」が「BIRTHDAY BUNKO」なんです。リーディングスタイルでしか買えないものを作る。そのために手間をかけているし、だからこそやらせてもらえるのかもしれません。

松井:パン屋さんとか、ケーキ屋さんならそもそもの商品がオンリーワンですけど、本ってどこでも同じものが同じ値段で買えますからね。今は古本もWebで買えるし、本でオンリーワンを作るって本当に難しいんですよね。

北田:そうなんです。例えば、「BIRTHDAY BUNKO」はギフト用にお買い上げいただくケースも多いんです。Webでも包装して相手に送ってくれるサービスがありますが、やっぱりプレゼントは直接選んで、直接渡したいじゃないですか。本のギフト需要ってリアル店舗ならではだと思うんです。リーディングスタイルでしか買えないものやギフト需要を作る。手間をかけるのも大変なんですが、リアル店舗でやっていくにはそれしかない、という気持ちです。

では、手間をかけた企画が生み出す価値ってどういうものがあるのでしょうか。

第4回「出会いを作る企画」。

 

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

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