「本屋さんとイベント」本屋B&B  内沼晋太郎さん 第5回 「いちばん“響く”イベント告知」

本屋さんのココ【第3回】「本屋さんとイベント」本屋B&B

更新日 2020.07.20
公開日 2014.11.05
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松井:具体的な運営についても聞かせてください。まず、イベント告知はどうやっていますか。やっぱりイベントをするときって、お客さんが来てくれるかどうかがいちばん不安だと思うんです。

内沼:今はウェブサイトとTwitter、Facebook、それと店頭のチラシです。特別な方法は利用していません。でもいちばん効果があるのは、登壇者本人のSNSですよ。やっぱりみんな登壇者を見に来るので、その人のTwitterはチェックしているんですよね。それは本の宣伝も同じだと思います。出版社の広告や告知以上に、本人の宣伝のほうが効果がある。イベントでも本でも、本人が宣伝に積極的かどうかがすごく重要になってきていると思います。その傾向はどんどん強くなっていますね。TwitterやFacebookのタイムライン、ニュースキュレーションサイトなど、自分用に情報がカスタマイズされるようになって、みんなが受け取るマスの情報が少なくなってきました。だから「ご本人にきちんと告知していただけるようにお願いする」ということがいちばん大切で効果的だと思います。それがいちばん届きやすい。B&Bだから特別な告知方法を持っているとか、集まりやすいとか、そういうことはないですね。

 もちろん数の力というのはあります。B&BのTwitterのフォロワー数は現在12,000人くらいです。それなりの影響力はありますが、とはいえここでつぶやいたからと言って、どんな企画でも30人すぐに埋まるかというと、残念ながらそこまでの力はありません。もしこれが100万人になったら話は違うだろうと思いますが、そのレベルはまだ現実的ではないですから。イベントによって効果的な告知方法はそれぞれです。イベントに合わせて単独のチラシを作ることもあります。実際に映画関係のイベントで劇場にチラシを置かせていただいたこともありました。

松井:店頭に置いているイベントチラシも効果的ですよね。手に取ったお客さんとイベントの話題になることが多いです。

内沼:そういう地道な方法も効果があったりしますね。

松井:運営ではビールの提供や会場設営もあります。そういう仕事はインターンが手伝ってくれていますよね。インターンの募集や確保はどうやっていったんですか。

内沼:それもTwitterやFacebook、ウェブサイトでの告知です。ありがたいことにたくさん応募がありました。

松井:実際の運営は、インターンにメーリングリストに登録してもらって定期的に連絡。シフトに空きがある時間に希望者を募って入ってもらう、という方法ですよね。今、登録している人はどのくらいなんですか。

内沼:直近では6期インターンの募集をしました。毎回50人前後の方から応募があるので、今の登録人数は300人くらいでしょうか。ただ登録はしていても参加していない人とか、1回だけの参加という人もいるので、実際に常時参加してくれている人は30~50人くらいかな。必ずしも数が多いほうがいいとは思っていませんが、インターンの応募はB&Bが魅力ある場所でありつづけなきゃいけない、ということのひとつの指標になりますね。今は50人来ている応募が、10人くらいしか来なくなったら、それは明らかにB&Bの問題です。単純に店の魅力が下がっているということ。今はまだたくさん応募がありますが、常に魅力のある店として頑張らないといけないなと思っています。

松井:場所としての魅力、ということですか。

内沼:この場所に関わりたい、と思ってもらえるかどうかですよね。本屋さんって本好きであれば一度は働いてみたい場所のひとつだと思うんです。場所の魅力という意味だと、そういう本屋さん自体の魅力もB&Bのインターンには大きいんですよ。だからB&Bにインターンが集まらなくなるということは、B&Bの魅力が低下しているか、もしくは本屋さん自体の魅力が低下しているかのどちらかですよね。今の大学生や意欲のある社会人にとって本屋さんは魅力のある場所だけど、10年後もそうである保証はどこにもない。「本屋って何?」と思われる可能性すらある。

松井:「本屋でインターンなんてダサい」、と(笑)。

内沼:だからB&Bも本屋さんのひとつとして魅力ある場所でありつづけないといけないな、ということですね。

松井:ちなみに秋山さんはどうしてインターンをやろうと思ったの?

秋山:私もTwitterやFacebookでインターン募集を知って応募したんです。単純にB&Bでインターンするのは楽しそうだな、と思って。そもそも本屋さんのインターンって何をするのかもよくわかっていなかったんです。それでも実際にやってみたら本や本屋さん好きの人が集まっていて、それがお客さんやイベントで出会う人より、強い人が多いなって感じたんです。サークルみたいな感覚というか、好きという気持ちが似ている人が多いので居心地が良くてつづけている、という感じです。

内沼:それは僕も見ていて感じます。最初から予想していたわけじゃなかったんだけど、そういう関係性が生まれたのは良かったです。やっぱりいちばんいいと思うのは、仲間ができることですね。僕もそうだったし、今でもそうなんだけど、仲間を作るのって簡単のように見えて簡単じゃないというか、簡単じゃないように見えて簡単というか(笑)。つまりきっかけがあれば簡単なんだけど、いいきっかけがないと難しいんですよ。そこでB&Bのインターンがひとつのきっかけになるといいなと思うんです。秋山さんが言った感性が近い人と出会えるというのもそうだし、逆に今まで接点がなかったタイプの人とも出会えると思うんです。そういうどちらもあるという部分がいいんだと思いますね。僕もB&Bをやっていると普段だったら接点がない人と出会えることがあって、面白いですよ。

秋山:大学生だと普段は社会人の方と接点がないので、そういう方とコミュニケーションできるのは面白いです。

松井:B&Bは社会人インターンの方も多いですね。

内沼:学生と社会人がインターンという同じ立場で横並び、という状況は珍しいですよね。僕も大学などで学生に向けて話すことがたまにあるんですが、その時にはよく「近所のバーに行くといいよ」という話をするんです。つまり「大人の友達を作るべき」ということです。やっぱり社会に出るのは不安ですよね。不安をなくすのは難しいですが、社会に出ている大人と上司と部下という関係じゃなくて、横並びの友達として交流があると、いろんな大人の姿を知ることができる。大学生のうちにそれが経験できるかどうかは、かなり大きいんじゃないかな。

秋山:普段だとあり得ないような発見があるのも面白いです。たまたま初めて入ったときにやっていたイベントが「落語」だったんです。そこで始めてちゃんと落語を聞いたんですが、すごく面白くて。B&Bでインターンに入らなければそんなことわからなかった。他にも以前「城」に関するイベントがあったんですが、そこに満員のお客さんが来ていて、「こんなに世の中には『城』に興味のある人がいるんだ」って驚きました。そういういろんな出会い、人の出会いもそうだし、本やイベントでの出会いがお客さんとして関わるよりもすごく多いと思います。

内沼:それはいい発見ですよね。城のイベントでこんなに人が来るんだ、という発見って普通に生活していたらまずないことです。仮にB&BのTwitterをフォローしていて、「城イベント」の情報が流れても目にも留めない。でもインターンをきっかけに、初めて城のイベントに来る人がこんなにいて、こういう人たちが城に興味があるんだという発見がある。そういう予想外の出会いが、人生をひとつ豊かにすると思います。

松井:本でも人でも、偶然の出会いがある場所がいい空間なのかもしれないですね。

松井・秋山:内沼さん、今日はありがとうございました!

 

 

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

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