「本屋さんとイベント」本屋B&B  内沼晋太郎さん 第4回

本屋さんのココ【第3回】「本屋さんとイベント」本屋B&B

更新日 2020.07.20
公開日 2014.11.05
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今回のテーマは「本屋さんとイベント」。下北沢にある本屋B&B(以下、B&B)のオーナーである内沼晋太郎さんにお話を伺いました。B&Bは2012年7月のオープン以来、毎日かかさずイベントや講座を開催しています。またイベント以外にも、「ビールが飲める」「家具が買える」といった特徴も。

実は松井と、代官山 蔦屋書店に引き続き今回も一緒に回ってくれた秋山史織さんはB&Bのインターンスタッフとして、イベント運営の経験があります。そのせいか、会話は具体的なイベント運営やインターンの話にもなりました。

「イベントってどうやればいいの?」「毎日やるって大変じゃない?」「本屋さんのイベントはどういうものなの?」。そんな疑問に答えていただきました。

「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。

取材日:2014/10/17

取材:松井祐輔、秋山史織
写真:片山菜緒子

構成:松井祐輔

イベントはもうひとつの本棚なんです

秋山:毎日のイベント内容はどうやって調整しているんですか。オープン当初から今まで、ラインナップが変わってきたりしたんでしょうか。

内沼:「なるべくいろんな企画をやりたい」という気持ちは最初からありました。変化があるとしたら、企画での大きな失敗はしなくなってきた、ということでしょうか。例えば3人しか集客がない、ということはほとんどなくなってきましたね。

松井:……ということは、最初はあったんですね(笑)。

内沼:そうですね(笑)。良くないことではあるんですが、みんなそういう経験を積んで、だんだん“読める”ようになってきたんだと思います。この企画はB&Bに合うかな、という雰囲気ですね。例えば企画をいただいたときも、「もう少し良いイベントにできそう」という感覚はスタッフ共通で持てるようになってきました。そういうときは少しテーマを変えるとか、他の対談者を呼ぶとか、なんらかの調整をします。それといろんな企画をやりたいと言っても、やっぱりB&Bとは合わないものもあって、そういう“ちょっとしたニュアンスの違い”もわかってきました。

松井:B&Bに合わないイベント、というのはどういうものなんでしょう。逆に言うとB&Bらしさがある、ということですか。

内沼:それはありますね。ただ僕らは「B&Bらしさ」を強めたいとは思っていなくて、むしろできるだけいろんな企画をやりたいんです。今まで全くやったことのないイベントでも、面白そうだからやってみようという考えで始めることもあります。ただ、結果的にうまくいかなかったイベントには傾向がありそう、ということなんです。

 例えば「単純に面白い、笑える」というイベント。言い換えると「学びがない」イベントは難しいことが多いです。やっぱりお客さんは何か持ち帰りたいんですね。そのイベントに行くことでなにか学びがある、そういう雰囲気があるイベントがうまくいきます。これはB&Bが1,500円+ワンドリンクという決して安くはない参加費をいただいているということも関係しているかもしれませんね。テレビやYouTubeで無料で見ることができるようなものに、人はわざわざお金を払わなくなっているのかもしれません。それと専門の場所があるかないか。例えばお笑いのライブであれば、専門のライブハウスもありますから。そこと比べると、会場としてお笑い芸人さんにとってB&Bはいわばアウェーなわけで、わざわざB&Bで他の専門会場と同じことをやってもダメ、ということもあると思います。

松井:なにか「学び」があるかどうか。他の専門会場でやっているようなことをそのままB&Bでやってもらってもダメ。そうなると普段とは違う切り口で考えないといけないわけですね。

内沼:そこが「企画」なんですよね。この人を呼んだらダメ、ということではなく、お客さんから見たときに「この人がB&Bでこういう話をするなら見たい」という企画にできるかどうかなんですよ。それは本の刊行記念イベントでも同じですね。同じ人が都内のいろんな場所でイベントをすれば当然、お客さんは分散します。その中で「B&Bの企画は見たほうがいい!」と思ってもらえるかどうか。だから登壇者が有名かどうかということと、イベントの集客とは直結しないんです。

 例えば、「コピーライター3年目ナイト」のような、特定の業界に勤める同世代の人を呼んで、その仕事でその世代ならではの話や、勤める会社によるちょっとした違いについて聞く、というイベント。これには人が集まったりするんです。登壇者は有名人ではないけれど、やっぱりその業界に興味がある人がたくさん集まる。学生も多いですね。これが企画です。ただ呼びたい人を呼ぶだけでは企画ではない。ひとつひとつのイベントを、本をつくるように企画していくのが理想だと考えています。

 あと、企画のバランスも気をつけています。同じジャンルのイベントが続きすぎていないかどうか。それはB&Bの品揃えと同じで、全ジャンルの本を扱っているのに、1ジャンル、ある1本の棚だけで5回も6回もイベントが続くのはバランスが悪いですよね。なるべく扱う本のバランスとイベントのバランスが近くなるように気をつけています。

 B&Bのウェブサイトも棚の並びとバランスを意識してデザインしているんです。トップページにこれから開催予定の全イベント登壇者の名前を「&」でつなげて表示しています。これはB&Bにとって、「もうひとつの本棚」なんですよ。サイト上にイベントという形の「本」が並んでいて、それが本棚みたいに全体として視界に入る。そうすると「お目当ての人とは違うけど、こういう人も来るんだ」、という偶然の出会いにつながりますよね。イベント登壇者の並びもB&Bの本棚と同じで、「偶然の出会い」を作るものであってほしいと思うんです。

 今は他にもイベントをする場所が増えていますから、毎日2年以上イベントを続けていると言っても、やっぱり企画がしっかりしていないといけない。ちゃんと続けていくことで、B&Bでやりたい、B&Bのイベントなら見たい、と思ってもらえるようにしたいですね。

B&Bの競合って?

内沼:他に「毎日イベントをする書店」がなぜないんだろう、とも思うんですよ。他の場所ではどうなるんだろう、みんなやればいいのに、と思うときがありますね。さすがに下北沢にできたら困りますが(笑)。

松井:それは大型書店が下北沢にできるよりも怖いですか?

内沼:「毎日イベントする書店」のほうが、間違いなく怖いですね(笑)。大型書店はB&Bとは競合しないですからね。

松井:普通の本屋さんだったら、大きな書店のほうが脅威ですよね。

内沼:僕はむしろ、下北沢に大きな書店ができたほうが嬉しい、とも思います。下北沢駅北口には三省堂書店がありますが、「あそこに行けばだいたいある」いうほどの大型書店ではないんです。「下北沢」という街の単位で考えたときに、B&Bがあってヴィレッジヴァンガードがあって三省堂書店があって、それぞれ個性ある古本屋がたくさんあって……というバランスのことを考えます。最近は下北沢を「本の街」として特集してくれる雑誌が増えてきているんですよ。もうひとつ大型書店があれば、本の街としての下北沢は最強になる。役割が違うので、大型店ができるのはB&Bにとってむしろプラスになると思います。1000坪のフロアの中に30坪くらいのイベントスペースが複数あって、そこで毎日イベントします、と言われたら別ですが(笑)。

松井:確かにそれは困りますね(笑)。でも都内だと本屋さんやそれ以外でもイベントスペース自体はたくさんありますし、そこが全て競合、と言い始めたらキリがないですよね。

内沼:そうですね。結局同じ結論になりますが、「僕らに企画力さえあれば大丈夫」ということですね。他の場所と同じ著者のイベントが重なっても、違う企画にしてその内容を魅力に思ってもらえればいい。むしろ他の場所とB&B、両方聞きたくなるようにできるのがいちばんいいと思います。それは本とイベントが違うところですね。本自体はどこでも同じものが同じ値段で売っているけど、同じ本に関するイベントでも自分たちが面白い企画を立てられれば、競合しないし差別化できる。

秋山:やっぱり企画が大切なんですね。

内沼:すごく大切です。僕らも、まだ競合が少ない、という部分に甘えているところがあって。だからうっかりすると安易に企画してしまうところもあります。これからはそういう部分をなくしていこう、とスタッフで話をしているところです。

松井:他にもイベントスペースはあるし、内沼さん自身、横浜・みなとみらいの「BUKATUDO」や「DESCENTE SHOP TOKYO」などでイベントを企画されています。他の場所とB&Bでイベントを企画するときの違いはありますか。

内沼:実際にやっていて思うのは、「場所は様々なことを規定する」ということですね。B&Bでは集まるけど、他の場所では集まらないイベントもあるし、もちろんその逆もある。それはB&Bが本に囲まれた空間で、例えばDESCENTE SHOP TOKYOはスポーツショップの地下にあるイベントスペースで、その空間でしか感じられないものがあるからだと思います。最初はどんな場所でも、企画内容や集客は常に不安がつきまといますが、やっていくうちに段々その空間の特徴がわかってくるんです。お客さんの集まり方やイベントでの反応、場所としてどういうことをやりたいか、やるべきか。立地や扱う商品、内装や施設の名前、空間の広さ、そういうあらゆる要素がイベントの雰囲気を決めていくんです。 そうしたあらゆる要素とそこにある“雰囲気”をうまく調整して、場所ごとに適したものにしていくのが企画者の仕事でもありますね。

 だから僕が他の場所でイベントを企画することも、B&Bの競合を増やすことにはならないわけです。B&Bが潰れてしまっては元も子もないわけですから(笑)。もし下北沢につくったとしても、それでもやり方次第でうまく共存できるかもしれないですね。

松井:その空間の“雰囲気”は最初に決めるというより、やりながら決まって来るものですか。

内沼:もちろん最初にコンセプトは決めますが、細かいニュアンスの部分はやりながら決まって来るものですね。イベントスペースに限らず、本屋における品揃えもそうだと思います。特に古本屋さんはわかりやすいですね。古本の品揃えは、市場での仕入れか、お店からの「せどり(転売)」か、お客さんからの買い取りがほとんど。つまり思い通りの仕入れができないんですよね。だから1軒1軒違う店になる。店主の意志とお客さん、もちろん立地なども含めて、様々な要素が積み重なって、店がつくられていく。これは新刊書店でも同じです。店の店主やイベントの企画者というのは、そういうせめぎ合いの中で方向を決めていく、導いていく仕事だと思います。

次回はB&Bとインターンについて。体験談も語ります。

第5回「本屋さんが魅力ある場所だと思ってもらうために、B&Bも頑張らないといけない」

 

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

本屋B&B

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