【川瀬泰雄プロフィール】
東京音楽出版(現ホリプロ)入社後、山口百恵の引退までプロデュース。そのほか井上陽水、浜田省吾等のプロデュースも担当、現在まで約1600曲をプロデュース。
山口百恵さんの音楽は、独特の世界観がある歌といろいろなジャンルのエッセンスが散りばめられた高い音楽性が魅力となっています。その音楽世界について、川瀬さんにお聞きしました。
Q:アイドルとしてデビューした山口百恵さんに、「横須賀ストーリー」など従来の歌謡曲とは違うロック色のある曲を作ったのは、井上陽水さんや浜田省吾さんなどのお仕事をされていたことと関係はありますか?
A:特別、関係はないと思います。それほど意識はしていませんでしたが、僕自身がエルビス・プレスリーから始まってビートルズやレッド・ツェッペリンやヴァン・ヘイレンなど、ロックンロールがずっと好きだったことのほうが影響していると思います。
Q:従来の歌謡曲路線ではなく、新しい音楽作りを意識された動機などはありますか?
A:ディレクターという仕事をやり始めた当初から、もともと僕自身の中には、大好きなロックの要素がありました。当然、歌謡曲といわれているジャンルにおいても同じ感覚で聞いていましたので、どんな曲でも…仮にスローな曲調でも、ルーツにロックのフィーリングが流れていないと満足ができませんでした。これはアップテンポの曲に限ったことではなく、演歌のような曲でも、たとえば石川さゆりさんの「津軽海峡冬景色」や「天城越え」、坂本冬美さんの「夜桜お七」などには、ロックのテイストを感じるのです。
Q:山口百恵さんの音楽は、ロック以外にもラテンやフラメンコ、ジャズ、カントリー…様々なジャンルが入っていますが、すごく自然に取り入れられていると思います。
A:もちろん最初の頃はここまでだったら、音楽的に百恵さんがついて来れるだろうという、多少、余裕を持った作り方だったのですが、気がついたらこれでは、逆にこちらが追い越されてしまいそうだ、というところまで、本人の成長には著しいものがありました。ビートルズがあらゆるジャンルの要素を取り入れて大きく成長していき、それでもあくまでもビートルズだったように、百恵さんもいろいろなジャンルの音楽を取り入れて「山口百恵」という世界を変えずに成長していけると思い、少しずつ様々なジャンルを取り入れていきました。
Q:いろいろな作家の方に曲を依頼したのも、音楽の幅を広げる狙いもあったのですか? プロデュースで意図されたことは?
A:同じ作家さんに作って戴くのも、アーティストのカラーを決める時には大事なことだと思いますが、ビートルズは色々なアーティストの曲をカバーしてレコーディングしたり、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソンという、持ち味の違う作家がそれぞれの個性を生かして作った曲で成長し、音楽界をリードしてきました。まして百恵さんの時代では、一般のリスナーがすでに、そのビートルズなどの洗礼を受けてきた人たちなので、僕たちも、できるところまでやってみようという結果、『曼珠沙華』のような独特の「山口百恵の世界」が出来上がりました。どんなジャンルの曲を歌うかというよりも「山口百恵」というジャンルを作っていきたいと思っていました。
編集部:山口百恵さんの深い音楽には、貪欲に良質な音楽を作りたいという川瀬さんの熱い思いが込められています。
次回はいよいよ最終回。惜しまれる引退までのお話をお聞きしますので、乞うご期待!
Archives————————————————
◆著者インタビュー(第3回)「当時のデモテープについて・続編」