アニメーターとして、また絵本や児童書の世界でも活躍する絵本作家、あさくらまやさん。今月刊行された『グッスリホテルへようこそ』は、「寝る前のトイレやはみがきなんてイヤ!」という子のためのユーモア絵本です。あさくらまやさんに、作品作りにまつわるエピソードや、絵本作家としての歩みなどをたっぷり伺いました。
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内容紹介
ある日トントが「グッスリホテル」に泊まりました。誰でもぐっすり眠れるというこのホテル、じつは寝る前にしないといけないことがたくさんあるのです。トントはおふろの間やパジャマの間などに案内され、なかなか部屋にたどり着きません。早く寝たいよう!
あさくらまやさん特別インタビュー
―面倒な寝る支度のあれこれを面白く描けたらいいなというのが、この絵本の出発点
さいしょは、眠れない男の子が主人公の絵本のラフを描いていたんです。でも、内容がもっとファンタジー寄りで、対象年齢もちょっと高めだったり、ストーリーに盛り上がりというか、起伏がうまくつけられなくて。編集のNさんから、笑いも盛り込めたらいいねというアドバイスもありました。いろいろ考えるうちに、寝る直前のお話だと、エピソードが盛り込みづらいと気づいたんです。それで、寝る支度を追っていったほうが、エピソードを盛り込めるんじゃないかと思いました。
そもそもわたし、寝る支度ってほんとうに面倒だと思っていて、若いころはよく「おふろキャンセル」したりしてたんです。今は、べたべたして気持ち悪いので、がんばっておふろに入ってますけどね(笑)。そういえば、以前モンゴルに旅行に行ったときも、1週間くらいおふろに入らなかったんですけど、全然気にならなかったです。まあ、ゲルに泊まっているあいだはおふろそのものがあまりないので、誰も入ってなかったというのもありますけどね。
とにかく、その面倒な寝る支度のあれこれを面白く描けたらいいなというのが、この絵本の出発点です。「ぞうのシャワーのおふろ」とか、「くもの糸のパジャマ」とか、「ハミガキドリのはみがき」などの案は、わりとすんなり思いつきました。ぞうが鼻でシャワーする様子なんかをテレビで見たことがあったからかなあと思うんですけど。

▲ぞうがシャワーをあびせ、シャンプーで洗ってくれるおふろ

▲くもが体じゅうをはいまわり、採寸してパジャマを編んでくれる

▲ハミガキドリが歯をつんつんしながら、きれいにお掃除
「べんきコースター」のところは、はじめ「おまるの遊覧船」だったんです。その案もすごく気に入っていたんですけど、お子さんに読んでもらったら、「今の子はおまるを知らない」「使っていない」ということを知って。すごく残念でしたが別案にすることになり、「べんきコースター」を思いつきました。このページがお子さんにいちばん人気になったみたいで、やった!と思いました。大人でも面倒に感じる寝る支度を、動物の世界に置き換えて面白く描いたことで、子どもが共感できる内容になったのは嬉しいですね。

▲さいしょのラフは「おまるの遊覧船」

▲「おまる」を知らない子が多いため、「きょうふのべんきコースター」に
―子どもの頃から培われた独特のユーモアのセンス
自分ではそんなにユーモアのセンスがあるとは思わないんですけど……、そういえば子どものころは、岡田あーみん先生の『こいつら100%伝説』とか、さくらももこ先生の『ちびまる子ちゃん』などの漫画が大好きでした。ときどき家族から『ちびまる子ちゃん』の野口さんみたいだねって言われることもあります。密かにお笑い好き、というところが似てるのかな?
わりとふざけるのが好きな子どもだったんじゃないかなと思います。友だちと、なるべくずたぼろにした新聞紙をまとってファッションショーをしたり、袋を作ったのにわざと口まで閉じちゃって、「(物を)入れない物入れ」と言って爆笑したりしてました。そういえば読み物も、ユーモラスなものが好きでした。寺村輝夫先生や小沢正先生の作品が大好きで、小学生のときすごく読んでました。あと、三田村信行先生の「ねこのネコカブリ小学校」シリーズ。この仕事を始めて、あかね書房の編集さんから三田村信行先生の「ふしぎ町のふしぎレストラン」シリーズの絵をお願いされたとき、すごくびっくりしましたし、心から嬉しかったです。
―大学時代、偶然見たイギリス絵本の世界展をきっかけに、絵本へ興味がわいた
絵本作家には、すぐになろうとは思わなかったです。もともと絵が好きだったので、大学は美大に進みましたが、アニメに興味があったので、映像学科でした。ティム・バートンとかユーリ・ノルシュテインなどの短編アニメから入って。今は主にフリーでアニメーターとして仕事をしています。
絵本作家っていいなと思ったのは、高校時代、偶然、新宿を通ったときに、三越美術館でイギリス絵本の世界展を見かけたのがきっかけでした。ふらっと入ったら、アンソニー・ブラウンとか、ブライアン・ワイルドスミス、チャールズ・キーピングなんかの絵本の原画があって。絵本の絵っていいなあと素直に思ったんです。それまでは主に西洋絵画に親しんでいたんですが、西洋絵画ってすごく大きいし画題も壮大で、別世界のものという気がしていました。それに対して絵本の絵は身近というか、絵もそこまで大きくないし、本になれば手に取って見ることができるし、内容も含めて親しみがあっていいな、自分も描いてみたいなと思ったんです。好きだった短編アニメも、絵本に近いところがあるので、今思うと、それが絵本につながっていったのかもしれません。
―「あとさき塾」が絵本作りの土台に。ついに絵本作家デビュー
絵本作家になりたいと思ったとき、友だちに「あとさき塾」というのがあるよと教えてもらって、5~6年くらい通いました。フリー編集者の土井章史さんと小野明さんがやっている絵本塾です。ここでの数年間が、わたしの絵本作りの土台になりました。土井さんは、絵本とはこういうものだとか、具体的に言葉にする方ではないんですが、塾に通いながら感じたのは、「絵本は、子どものエンタメ。大人にとってのハリウッド映画のようなものを目指しなさい」というメッセージ。それまで絵本は好きだったけど、どうやったら絵本を描けるのか、何があると絵本として成立するのか、なかなかわからなかったんです。でもこの塾でいろいろな方の絵本ラフを見たり講評を聞いたりするうちに、なんとなく絵本に何が必要なのか、つかんだ気がします。Gakkenの月刊絵本「ピーマンくんえんにいく」で絵本作家としてデビューしたのは、あとさき塾で絵本の勉強を始めてから10年くらい経ってからのことでした。
―『グッスリホテルへようこそ』は、担当編集Nさんとのやりとりから生まれた
絵本のラフを見せるのって、すごく勇気がいるんです。あとさき塾でもそうでしたけど、たとえ1か月かかって描いたラフでも、「これはダメ」って言われるのは一瞬です。ほんとうに心が折れます。でも『グッスリホテルへようこそ』の担当編集Nさんは、変なのを出しても引いてる感じがしなくて、何でも見てもらえる安心感がありました。Nさんにも、ダメダメなものも含めて、たくさん絵本の種やラフをお見せしたんですけどね。このお話もさいしょは眠れない男の子のお話だったのですが、打合せを重ねるうちに、Nさんのなかに「こういう絵本が作りたい」というのがしっかりあって、それが伝わってきた感じがしました。それに導かれるようにこの絵本が生まれたというか、この絵本は、Nさんとのやりとりのなかで生まれた実感があります。
―たくさん苦労もあったけど、登場人物の表情を描くのが楽しかった
この絵本を描いていて楽しかったことと、苦労……。苦労したことは……、うーん、全体に苦労したかなあ(笑)。ラフは何回も手直ししたし、色を塗ってからもバランスを見てもらったり。カラフルになりすぎると目があちこちいくので、使う色数を押さえたほうがいいとわかって、描き直したページもあります。あと今回は、絵がフラットにならないように工夫を重ねたりもしました。
特に難しかったのは、テキストの修正ですね。担当編集Nさんに最初のラフをお見せするときに、だいぶ整理したものをお見せしたと思ったんですけど、まだまだ長いとわかって、かなり削りました。ほんとうはもっと減らして読みやすくしたかったんですけど、どうしても必要なフレーズがあって、譲れないところはそのままいこうということになりました。幼年童話がもともと好きというのもあって、文章が長くなりがちなのかもしれないです。
楽しかったのは、トントとかきつねの支配人の表情を描けたことですね。トントがどんどん疲れていく様子とか、パジャマができあがったときの顔とか、きつねの支配人の得意げな顔とか。きつねの支配人は、自分の仕事に誇りを持っていて、一生懸命取り組んでいると思うので、そんな表情を描きたかったんです。あと、きつねは自分たちに誇りをもっているから、「自分推し」だろうと思って、廊下にきつねに関する本とか絵をたくさん描きました。探してもらえると嬉しいです。
―トントの旅は続く。次の目的地は?
「トントは、どこへ向かって旅をしているんですか?」と聞かれたことがあります。でもじつは、わたしもよく分かってないんです。どこかへ向かっている途中だと思うんですけど。そういえばわたしも、子どものころ自宅で「旅に行ってくる」と言って、かばんにおやつとかつめてカーテンの後ろに隠れ、帰ってくるという遊びをしていました。子どもって、旅に出たくなる生きものなのかもしれないですね。『グッスリホテルへようこそ』のトントがわたしもほんとうに好きで、ぜひ続編を描きたいと思っています。次は、どこへ旅をさせようか、今から案を練っています。楽しみに待っていてくださいね。

▲あさくらまやさんのアトリエ。アニメの仕事も多く、ラフなどはMacを使うことが多い。

▲引き出しにはたくさんの画材が

▲よくデスクやラフの上に乗ってくる愛猫。じゃまするけど、可愛くて仕方ない
あさくらまやさん、すてきなお話をありがとうございました! 次回作も楽しみにしています!
■あさくらまやさんの最新刊『グッスリホテルへようこそ』。「寝る前のトイレやはみがきなんてイヤ!」という子のためのユーモア絵本。読み聞かせだけでなく、小学校の朝読や読書感想文にもお勧め。ぜひお子さんとお読みください。
著者プロフィール
あさくらまやさん
東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業。フリーのアニメーターとして映像制作に携わりながら、絵本ワークショップ「あとさき塾」で学ぶ。主な絵本に「ピーマンくんえんにいく」(Gakken おはなしプーカ)、『ブルブルさんとおばけのあかちゃん』(小学館)、『マルコはとなりへおつかいに』(なかであきこ・作 くもん出版)、児童書の挿画に「ふしぎ町のふしぎレストラン」シリーズ(三田村信行・作 あかね書房)などがある。
商品概要
■書名:『グッスリホテルへようこそ』
■作・絵:あさくらまや
■定価:1,540円(税込み)
■発売日:2025年5月26日
■発行:Gakken
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