絵本『ホットドッグ』の日本語版を翻訳したミュージシャン・矢野顕子さんの朗読会・サイン会が8月30日に開催されました。
『ホットドッグ』日本語版を翻訳したミュージシャンの矢野顕子さんの朗読会・サイン会が、8月30日に代官山蔦屋書店シェアラウンジで開催されました。
司会を務めたのは、フリーアナウンサーで絵本専門士の野田英里さん。ニューヨーク在住の矢野さんにとって、日本での貴重なイベントということもあり、70席のチケットはすぐに完売。矢野さんの温もりを感じるやさしい声で聴く『ホットドック』は、来場したファンに大好評でした。
『ホットドッグ』の舞台は、大都会ニューヨーク。うだるような暑さのなか、散歩をギブアップした犬を連れ、飼い主が向かったのは…。犬と飼い主の絆を描いた、心が温かくなる絵本です。
アメリカで出版された絵本の中でもっともすぐれた作品の画家に対して、年に一度贈られるコルデコット賞2023と、世界的な絵本の新人賞であるエズラ・ジャック・キーツ賞をW受賞しています。
この日は朗読後、ニューヨークで長年暮らしている矢野さんから見た、『ホットドッグ』の魅力を語っていただきました。
野田さん:『ホットドック』の翻訳のオファーが来た時は、どう思いましたか。
矢野さん:「もう、これは私がやるしかない」と思うくらい、本当に「声をかけてくださって、ありがとう!」って感じでした(笑)。そう思えたのは、この本のどのページを開いても、作者が「(ニューヨークの)どこを描いているのかがわかる」というところも大きかったですね。
たとえば、ニューヨークは、消防車とかのサイレン音がすごいんです。初めてニューヨークに来た方は、びっくりすると思います。私は日本で救急車を見ると、サイレン音の小ささにいつも驚きます。この右側のページに「バッバッバー」ってありますが、なんでクラクションが鳴ってるかっていうと、前のタクシーがどかないから。私は、どかない車の運転手のところに、消防士がすごい勢いで降りてきて、胸ぐらつかんで…ていうのを2回ほど見たことがあります。そのぐらいよくあることなんです。
野田さん:『ホットドッグ』を読んだときに、最初に心惹かれたところはどこですか?
矢野さん:読んでいると、この犬と同じ気持ちになれるんです。本当に、もう、この絵がいいですよね。途中で文字のないページがあるのですが、そこがすごいいいんです。
――文字のないページというのは、都会の暑さから脱出して、浜辺で犬が思いきり遊ぶシーンですね。
矢野さん:そのひとつ前の、そう、このページもいいんです。浜辺を走り回っているんですが、この時の犬の解放感ったら「もう最高!」っていうのが、伝わってきますよね。もしかしたら、産まれて初めてかもしれないですね。犬が「うわ~」って、足跡で絵を描いて。飛んでいるもんね(笑)。この足跡見るだけでも、もう解放されたぞって。
野田さん:そして、次が文字のないページですね。
矢野さん:いいですよね~。初めて波打ち際を走るから、もうちょこちょこと…。ブルブルするところもうまいですよね。それで、次々と石を見つけていくわけです。
――次のページも文字がないですね。飼い主に石を届けています。
矢野さん:褒めてもらいたいからこうやって持ってきて。そして、また探しに行って、石だと思ったら…生まれて初めての遭遇ですよね。ね、動く石だった(笑)。ここのところの表情もいいですよね。
――矢野さんはこれまで、『しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる』と『せかいでいちばん あたまのいい いぬ ピートがっこうへいく』(共にリトル・ドッグ・プレス刊)の2冊を翻訳されていますが、『ホットドッグ』を翻訳するにあたって、大事にされたことはありますか?
矢野さん:今回は編集の方から「読者対象が5歳児からなので、5歳児が理解でき、感情移入できるもの」っていうリクエストがありました。今までは対象年齢の指定とかなくて、訳したいようにさせてもらっていたので、私としては初めて翻訳家の苦労を味わった感じがしました。でも自分自身の表現の幅っていうかね、そういうのを広げるのにも、いい訓練でした。
野田さん:最後のページの翻訳は、とくに悩まれたそうですね。
矢野さん: 原文は「ready to leap into a deep ocean sleep」。これは王道の“rhyme”(ライム=ラップの用語で韻を踏むこと)なんですが、私は最初、そのライム訳っていうのを出来もしないのに、ちょっと考えたんです…でも力及ばず。それで、「ベッドに もぐりこもう。 うみくらい ふかーく ねむっちゃおう。」と考えて、結局こちらの方が全然いいということになりました。
野田さん:あと、裏表紙の推薦文も矢野さんが訳されたんですね。
矢野さん:はい。私は知らなかったんですけど、コルデコット賞っていうのは、すごく有名な賞で、それを2回受賞なさったソフィ・ブラッコールさんからの推薦文が入っています。
原文だと「An utter joy from beginning to end!」。この「utter joy」って言い方がすごくおもしろくて。普通は「utter」の次は、否定的なものが来るんです。でも若い人とか、ミュージシャンがよく使う表現で、「めちゃくちゃいいよ」と称賛しているんですね。それで、「どのページを ひらいても、おもしろいったら ありゃしない!」とそういう風に訳してしまいました。けれども、もっとうまく訳せる方たくさんいるかな…。でも、本当に『ホットドック』を訳せたのは、私としてはすごい幸せでした。
野田さん:最後に、みなさまにひと言お願いできますか。
矢野さん:今まで訳した2冊の絵本も、ニューヨークが舞台でした。なので、自分の目線っていうか、理解できるものを日本語で皆さんに伝えることができるっていうのは、すごい幸せなことだなと思いました。これからも、ニューヨークの下町に関係するものであれば、翻訳のお仕事もしていきたいですね。
朗読とトーク後のサイン会も大盛況!
サイン会は、ファンの方と直接触れ合う貴重な機会となり、矢野さんも嬉しそうに対応されていました。1時間という短い時間ではありましたが、『ホットドッグ』に出てくる場所やニューヨーク事情のお話なども聞けて、来場してくださった方々にとっても、充実したイベントになったようです。
◆矢野顕子/やの・あきこ
1976年、アルバム『JAPANESE GIRL』でソロデビュー。
以来、YMOとの共演や様々なセッション、レコーディングに参加するなど、活動は多岐にわたる。rei harakamiと「yanokami」、森山良子との「やもり」をはじめ、上妻宏光、石川さゆり、上原ひろみ、YUKIなど、様々なジャンルのアーティストとの共演も多い。ニューヨーク在住。
商品の紹介
■書名:『ホットドッグ』
■作絵:ダグ・サラティ
■訳:矢野顕子
■発行:Gakken
■発売日:2023年7月20日
■定価:2,090円(税込)
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