漫画、小説、映画、お化け屋敷まで、様々に生み出される<恐怖>の技法。

 巧みなストーリーテリングと、一度見たら忘れられない、緻密で強烈な絵柄が人気のホラー漫画家、伊藤潤二。全国で100を超えるお化け屋敷を仕掛け、600万人以上を恐怖のどん底に陥れてきた<お化け屋敷プロデューサー>五味弘文。
 それぞれ活躍するジャンルは異なるが、「人に娯楽としての恐怖を与えるプロ」という意味では共通部分もある二人だ。
 この夏、奇しくもそれぞれの児童書が発刊されたことをきっかけに、両者による夢のような対談が実現した。

(前編はこちらから)

『恐怖ツナガル 呪い髪の女』の「お化け屋敷」マインド

伊藤:五味さんは「お化け屋敷で革命を起こした方」というイメージがありました。小説は前から書いていらっしゃったんですか?

五味:小説は今回二作目です。以前に長編(※1)を書いたことがあります。

編集部:今回は、「読むお化け屋敷」というコンセプトで短編を書いていただきました。

伊藤:そうですね、特に『雨の女』はお化け屋敷のような、逃げられない状況を作って書いていらっしゃるんだなと。一番印象に残った作品でした。滅茶苦茶怖かったです。厭だなぁと思いながら。厭だけどこれ、どうしようもないなぁと思いながら(笑)。

編集部:伊藤さんは実際にお化け屋敷に入られたりは……?

伊藤:数年前に「台場怪奇学校」で「富江」とコラボしたお化け屋敷が開かれまして、それは体験しました。それ以外では、個人的に地元の中津川の小さなものに入ったりはしたんですが、本格的にはなかなかなくて。五味さんのお化け屋敷は例えば今どこで。

五味:東京だと常設で、浅草の花やしきと東京ドームシティのお化け屋敷をやっています。
伊藤:今度、是非入らせてください。以前テレビで拝見して、今までのお化け屋敷と全然違うぞと、五味さんのは本当に怖いと思いました。生半可な気持ちでは入れないかもしれないですけど。

五味:もし機会があれば、ご案内しますよ。

伊藤:それは是非、滅多にないことで(笑)。

編集部:『呪い髪の女』は、今コロナ禍でなかなか遊園地などに遊びに行けない子から、この本を通して実際のお化け屋敷に入るように楽しめた、という感想もありました。

伊藤:やはり『雨の女』が特にお化け屋敷のマインドを感じました。和紙に習字を書かされるのも、お化け屋敷でミッションを与えられるような。それから長い髪の毛って、ホラーで格好の題材ですよね。

五味:なんであんなに気味の悪さが出るのか。

伊藤:一番最初の話に出てくる、排水口から出てくる髪の毛のあれも。それから『紙と髪』で口に髪と糊が入ってくるのも……。

五味:気持ち悪いですよね(笑)。排水口といえば、伊藤さんの作品にも『うめく排水管』(『何かが奇妙な物語』未収録)がありますよね。最終的に人が排水口に吸い込まれていくじゃないですか。あれは絶対文章では書けないなと。

伊藤:漫画でもあれはやっぱり描きにくくて。足から入るのがいいのか頭から入るのがいいのか。

五味:あれやっぱり描きづらかったんですか(笑)。でもあのリアリティは流石です。

伊藤:あと『白い顔』では、<捏>から始まって、謎の文字が送られてくる。これ、どういう意味があるのかと気になって読んでしまいました。これはどういう発想で産まれたんですか。

『呪い髪の女』には不穏なシーンが続出。左から『雨の女』、冒頭の挿話、『白い顔』。

▲『呪い髪の女』には不穏なシーンが続出。左から『雨の女』、冒頭の挿話、『白い顔』。

五味:それは、描きたかったのが、最後の家に入ってからのシーンなんです。ただ、そこまでに、ミステリーが必要だと思って。謎がないと、ラストへ到達するまでの読者の興味を持続できないなと。

伊藤:最後のシーンが、まず最初にあったんですか。

五味:そうなんです。あと、思春期の思いみたいなのを書ければいいなと思ったんですよね。「美しい」女の子と「可愛い」女の子との。

伊藤:美しいものを描くというモチベーションはありますよね。

五味:ありますね。ただ、文章の場合はもっとボヤッとしているので。美しい顔、とかいうと、絵には負けるなぁっていう。

伊藤:でも小説では、読者は自分の中でイメージを作り上げますので、まさに「絵にも描けない美しさ」です。

五味:いや、伊藤さんの描く美少女たるや……。美少女を描くときの線って大体決まっているものですか。

伊藤:うーん、でもね、描いては消しです。今はデジタルなのでボタンを設定して、何度も。

五味:そうなんですか。僕は伊藤さんはもうこの線はスーッとかけちゃうのかと。

伊藤:いえいえ、描ける人は描けるんでしょうが僕はもう長い時間をかけて。ちょっとずれただけで、人物の顔も、しもぶくれになっちゃったり。口元もちょっと変えただけで表情が変わっちゃうので。苦労しています。

五味:じゃあそのページ、とても大事に読まなきゃ(笑)。

伊藤潤二氏

「お化け屋敷談義」は続く

伊藤:ところで『呪い髪の女』は、映画化できますね。

五味:え、そうですか。

伊藤:和紙に毛が入っているという題材や、『雨の女』や『紙と髪』の紙漉き工場、そのほかの短編のエピソードも絡ませたら、怖いJホラー映画になると思います。

左から『雨の女』、『紙と髪』。全ての話は最後に紙漉き工場で起きたある悲劇に繋がる。(『呪い髪の女』

▲左から『雨の女』、『紙と髪』。全ての話は最後に紙漉き工場で起きたある悲劇に繋がる。(『呪い髪の女』)

五味:『雨の女』はスピルバーグの映画『激突』のイメージもあったかもしれないです。訳の分からないものに追い詰められる。あと、全然イメージが変わりましたが、最初にひとつ頭の片隅にあったのは、実は伊藤さんの『ファッションモデル』(『何かが奇妙な物語』未収録)の「淵さん」でした。背の高い女性に、傘に入ってこられたら負けるなあという。あとは雨のむせ返るようなにおいなどもこもっていると、すごい厭だろうなあという。

伊藤:鞄まで取られちゃっていますもんね。この本は、お化け屋敷にする、みたいなことはないのですか。

五味:今はそれは思っていないですね。

伊藤:例えばお客さんに傘を持ってもらって、そこに相手が入ってくる、みたいな。荷物も取られちゃって。

五味:あ!でもそれはいいですね。いいかもしれない。雨を降らせられれば最高ですが。

伊藤:ええ、鞄とか取りあげちゃうとトラブルになりそうな気もしますが(笑)。

五味:確かに。あと毎度キャストを入れなきゃいけないので効率は悪そうだけど(笑)。
でも以前、伊藤さんにお化け屋敷のキャラクターデザインをお願いできないかな、と思ったことはありました。

伊藤:いやあ自信ないなあ。

五味:そんなことないですよ。入ったら、目の前にこういう世界が実際に展開されるっていうのは、今でも夢です。

伊藤:ありがとうございます。

五味:そういうのは興味はあるんですか。確か海外で近いものをされていましたよね。

伊藤:ええ、台湾で脱出ゲームのような形にしてもらいました(※2)。入ると(伊藤作品に登場する)富江と双一がいたりとか。

五味:伊藤さんのお化け屋敷、海外でつくられちゃうのは悔しいですね。

伊藤:五味さんは日本以外では。

五味:ジャカルタで一度やったことがあります。お客さんが日本よりテンションが高かったですね。怖がる時の反応が大きくて。あと三人一組って言ってるのに、「友達だからこいつも一緒に入れてやってくれ!」とか自由で。

伊藤:怖かったんじゃないですかね(笑)。台湾でやった時も、日本ほどお化け屋敷がないからか、何もない所でも、すごい声を出したりして盛り上がっていました。

五味:そういえば、双一君は大人になってお化け屋敷を始めるという……。

伊藤:ああそうでした(笑)。僕も好きなんだと思います。

五味:あんなお化け屋敷は僕は作らないですが(笑)。

伊藤作品の魅力的なキャラクター達。左から淵さん、富江、双一。

▲伊藤作品の魅力的なキャラクター達。左から淵さん、富江、双一。

恐怖によって刺激された想像力は、きっと宝物になる。

編集部:最後に今回の書籍は児童書ということで、読者の子達に期待する読書体験やお気持ちなど、是非お伺いできればと思います。

伊藤:自分の子供の頃を思い出すと、楳図先生の漫画に始まって、中岡俊哉さんの心霊写真集や活字の実話風の怖い本などを夏休みに縁側で読むのがすごく楽しかった。怖いんだけど、ゾクゾクする感覚を今でも楽しく思い出します。
今の子どもにも、そうした体験は、大人になっても楽しい思い出になるのかなと。適度なグロテスクっていうのはいいんじゃないかと思います。インターネットにあるような、度を越したものは駄目ですけど。子供をゾクゾクさせるものは、教育にむしろいいんじゃないかとさえ思っています。

五味:子供の時に読んだ楳図先生の『へび女』に、「自分のお母さんの正体が怪物だった」というシーンがありました。自分の一番信頼している身近な親が実は恐ろしい存在だ、というのを子どもが読む。それによって想像力がすごい膨らんだ。実際に、台所仕事をしている母親の後ろ姿をみながら、実は、その正体は違うんじゃないか、と。
怖いものって想像力をものすごく刺激する。恐る恐るかもしれないけど、怖い話や漫画の扉を開けてもらえると、そこで育まれた想像力は将来的にはすごく宝物になるんじゃないかなと思います。本当は大人になってからでも、どんどん読んでほしいんですけどね(笑)。

編集部:お二人とも、本日はどうもありがとうございました。

対談後、それぞれの著作を持って。

▲対談後、それぞれの著作を持って。

※1……『憑き歯―密七号の家』(幻冬舎文庫)
※2……『伊藤潤二恐怖體驗展-絕命逃走中』 会場:駁二藝術特區大勇倉庫群自行車倉庫 期間:2018年12月29日(土)〜2019年3月3日(日)

<伊藤潤二 プロフィール>
 岐阜県生まれ。歯科技工士として働きながら、『月刊ハロウィン』の「楳図賞」に投稿。 1986年、「富江」が佳作を受賞し、デビュー作となる。その後、漫画家業に専念。「道のない街」、「首吊り気球」、「双一」シリーズ、「死びとの恋わずらい」、「うずまき」、「ギョ」、「潰談」など唯一無二の作品を発表し続け、2017年に画業30周年を迎える。2019年、「フランケンシュタイン」がアメリカのアイズナー賞優秀コミカライズ作品賞を受賞。

<五味弘文 プロフィール>
 長野県生まれ。1992年から全国でお化け屋敷をプロデュースしはじめ、その数は100を超える。24時間ライブ中継や水族館でのお化け屋敷など、従来のお化け屋敷の枠を越えた仕掛けも行う。著書に『お化け屋敷になぜ人は並ぶのか―「恐怖」で集客するビジネスの企画発想』(KADOKAWA)、ホラー小説『憑き歯―密七号の家』(幻冬舎)など。
株式会社オフィスバーン ホームページ:https://www.officeburn.jp/

商品の紹介

「何かが奇妙な物語」

 あらかじめ、隠さずに言います。怖い! 怖すぎる! 作っている編集者すら、戦慄しています。ホラーマンガ界の鬼才・伊藤潤二の傑作マンガの小説化です。小説とマンガの悪夢的融合。ページをめくると、驚愕します。「墓標の町」は全12編、「緩やかな別れ」は全11編を収録。

「何かが奇妙な物語」書影

■書名:『何かが奇妙な物語 墓標の町』
■原作:伊藤潤二
■著:澤田 薫
■発行:学研プラス
■発売日:2020年6月25日
■定価:本体1,000円+税

本書を購入する
 書名:『何かが奇妙な物語 緩やかな別れ』
■原作:伊藤潤二
■著:澤田 薫
■発行:学研プラス
■発売日:2020年6月25日
■定価:本体1,000円+税

本書を購入する

 

『恐怖ツナガル 呪い髪の女』

 数々の斬新なお化け屋敷で、全国の人びとを怖がらせてきた<お化け屋敷プロデューサー>五味弘文が仕掛ける、絶対に「読んではいけない」短編集。『黒い目』『白い顔』『雨の女』『紙と髪』、そして『四人家族』と、最恐ストーリー4編、ショートショート10編を収録。「本ならでは」の仕掛けが読者を襲う!

『恐怖ツナガル 呪い髪の女』書影
■書名:『恐怖ツナガル 呪い髪の女』
■作/五味弘文 絵/南條沙歩
■発行:学研プラス
■発売日:2020年8月6日
■定価:本体1,000円+税

本書を購入する