第4回 内向型でいることは、悪いことなのか ~マギーとルビーの場合~

スーザン・ケイン『静かな力』セレクション

更新日 2020.07.31
公開日 2018.03.29
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ペンシルヴェニア州に住む大学生のマギーは、昔、生まれながらのリーダーみたいな快活なクラスメートと自分を比べてばかりだったと言います。みんなからちやほやされる子たちを見ては、どうしてあの子たちはあんなに人気があるんだろうと思ったそうです。必ずしも、そんなにいい子ばかりじゃないのに!

見た目が華やかだったり、スポーツができたり、勉強ができたりという場合もあるものの、そういう子たちの一番の共通点は、外向的ということでした。誰にでも気軽に話しかけたり、授業中に大きな声を出したり、パーティーを開いたり、ということができるのです。どれも、マギーにはできないことでした。そのことで、マギーは、ひとり取り残されたように感じることもありました。

「騒々しい子や人気のある子がみんなとしゃべったり笑ったりしてると、『わたしも入っていきたいなあ。簡単なことなのに、どうしてできないんだろう。わたしって、どこかおかしいのかしら』と思っていました」

マギーは冗談がうまくて優しい子です。気の利いたことも言えます。でも、学校では、自分のそういうところを出すことができず、目立たない存在でした。

ところが、うれしいことに、マギーはだんだん変わっていきました。この世界には自分以外にも内向型の人がいるとわかったとき、ものすごくほっとしたそうです。

「七年生のときS・E・ヒントンの『アウトサイダー』を読んで、そのことがわかったんです。最初のページを読んだときから、目が離せなくなりました。主人公のポニーボーイは映画を観たあと、『ひとりでいたいときもあるんだ』と言って、ひとりで家に帰ります。それを読んで、わたしはすごく驚いたし、うれしかった。そうだったのか、わたしだけじゃなかったんだ、と思いました」

本書の「はじめに」(注・本連載1回目)にも書いたように、世界の人々の三分の一は内向型です。内向型というのは、おとなになればなくなる、といった種類の性質ではありません。みずから受け入れて、内向型のままおとなにならなければなりません。むしろ、自分が内向型であることを喜ぶべきなのです。その性質がどんなにすばらしいものかがわかってくれば、自分の長所のいくつかは内向性によるものかもしれないと気づくでしょう。そうなると自信も出てくるし、生活のほかの部分も豊かになるでしょう。

積極的になにかの活動をしなきゃいけないとか、みんなと仲よくしなきゃならないとか思っているかもしれませんが、そんな必要はありません。自分の好きなことをして、本当に大切だと思える友だちとだけ仲よくすればいいのです。

ルビーという大学生が話してくれました。ルビーは高校時代、新入生の教育係になろうと思いました。彼女の学校では、その係に選ばれることは大変な名誉なのです。しかし、そのためには社交的でなければなりません。ルビーはおとなしい子だったので教育係には選ばれなかったのですが、逆にそのことで、自分が本当にやりたいのは生物の勉強だと気づいたと言います。放課後も生物の先生の指導を受けて、十七歳のときにはじめての科学論文を書き上げました。さらには大学の奨学生に選ばれて、医用生体工学を学ぶことができたのです!

ルビーの話からもわかるように、友だちや家族に優しくするとか手を貸してあげるなど、人間としてやらなければならないことはいろいろありますが、〝わたしはこうあるべき〟という間違った思い込みも、またいろいろあるのです。

わたしは中学一年のとき、もっと外向的な人間になろうと思いました。そうするべきと思ったのです。快活で、イケてて、よくしゃべる、そんなタイプになりたいと思いました。しかし、時間はかかりましたが、本来の自分とは違う人間になんかなれないんだとわかりました。

考えてみれば、わたしの尊敬する人、つまり、ヒーローとかお手本とか言える存在は、すべて作家でした。作家さんたちのことがとにかくかっこいいと思えたのです。そして、かっこいい作家さんの多くは内向型でした。

当時はまだ、神経系の働きのことなんてわかっていなかったし、内向型なんていう言葉も知りませんでしたが、結局は自分の性格に合わせた人付き合いをするようになりました。わたしには、心から打ちとけられる友だちがいました。遊ぶのはそういう友だちひとりかふたりがせいぜい。大人数で遊ぶよりそのほうがいいと気づいたのです。友だちの数を競うより、限られた数の友だちと深い友情を育むことが大切だとわかりました。そのことはいまも変わりません。わたしは友情の質を大切にしています。

(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。次回は4月5日掲載予定です。)

スーザン・ケイン
プリンストン大学、ハーバード・ロースクールを卒業。<静かな革命>の創設者のひとり。著作の『Quiet』(邦訳『内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力』、古草秀子訳、講談社)は、世界40の言語に翻訳され、『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーになる。出演したTEDの動画の視聴回数は1800万回を超える。「思慮深いリーダーシップ」で、ハーバード・ロースクールのCelebration Award を受賞。『Inc.』誌により、「世界のリーダーおよびマネジメント専門家50人」に選ばれた。現在、夫とふたりの息子とともに、ハドソンリバーバレーに在住。

グレゴリー・モーン
作家。ビル・ナイとの共著により、『Jack and the Geniuses 』シリーズをはじめとする子ども向け読み物を多数発表している。

エリカ・モローズ
『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーとなった多くの子ども向け読み物の出版に、執筆協力者または共著者として関わっている。作家のほかに、助産師、陶芸家の顔も持つ。ニューヨーク在住。

【訳】西田 佳子 (にしだ よしこ)
名古屋市生まれ。東京外国語大学英米語学科卒業。英米文学翻訳家。訳書に〈警視キンケイド〉シリーズ(講談社)、『赤毛のアン』『小公子セドリック』『すごいね! みんなの通学路』(いずれも西村書店)、『ホートン・ミア館の怖い話』(理論社)、『テラプト先生がいるから』(静山社)、『わたしはマララ』(学研/共訳:金原瑞人)、『僕には世界がふたつある』(集英社/共訳:金原瑞人)などがある。

作品紹介

静かな力
内向型の人が自分らしく生きるための本

全米ミリオンセラー『Quiet(内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力)』のスーザン・ケインによる同テーマの最新刊。
定価:本体1,400円+税/学研プラス

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