はじめに

渡邉みどり『美智子さまに学ぶエレガンス』セレクション

更新日 2020.07.31
公開日 2017.09.05
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 日本でもっとも「エレガンス」を身につけた女性――。
「エレガンス」とは、辞書を引いてみると「優雅、上品、気品あふれる」という意味です。以前は日常生活ではあまり使いませんでした。この言葉は、美智子さまのためにあるような言葉でしょう。
「エレガンス」とは、贅沢や華美に装うことではありません。心のなかから表れる気品であり、人間の品格です。美智子さまのたたずまいには、日本人が、今こそお手本にしたい「エレガンス」がたくさんあります。
 お出ましになるときの装い、立ち居振る舞い、やさしい笑顔、心のこもったお言葉……。誰もが美智子さまを美しいと感じ、尊敬と好意を抱く。この印象こそが、美智子さまの「エレガンス」といえるでしょう。
 昭和三十四年四月十日、皇太子・継宮明仁(つぐのみやあひきひと)親王(今上陛下)と皇太子妃・美智子殿下のご成婚パレードが行われました。コースは、皇居から渋谷の東宮仮御所までの約八・八キロメートル。沿道を埋め尽くす五十三万人もの人々の祝福を受けながら、美智子さまは、史上初の民間出身の皇太子妃となったのです。
 現代のシンデレラ――。
 正田美智子さんと皇太子さまのご婚約が発表されると、マスコミはこう書きたてました。
 民間のご家庭のお嬢さんが、テニスコートで皇太子に見初められ、プロポーズをお受けになった。まだ戦後間もないころにあって、おふたりのご結婚は、国民にとって明るい希望を与えてくれるニュースだったのです。
 日本中がミッチーブームで盛り上がり、ご成婚パレードは、NHK、民放各局がこぞって中継しました。中継を見ようとテレビを買い求める人も続出し、その後、「何かあったらテレビをつける」という新しいライフスタイルが生まれました。
 当時、日本テレビの新人ディレクターだった私は、中継班の一員として、青山学院大学の構内に待機していました。道路を隔てた向かい側にはKRT(現・TBS)の中継班が陣取っています。おふたりを乗せた馬車が通過するとき、どちらの局のカメラが美智子さまの笑顔を長くとらえることができるか。熾烈な競争の始まりです。
 そこで私たちが考えたのは、青山学院大学グリークラブに「ハレルヤ」を合唱してもらうという作戦でした。聖心女子大学ご出身でクラシックに造詣の深い美智子さまにそのハレルヤの大合唱に気づいていただき、笑顔のアップをカメラにおさめようというわけだったのです。ハレルヤコーラス開始のキューを出すのが私の仕事でした。
 午後三時七分、馬車は青学の角をゆっくり左折。私は思い切り右手を振ってキューを出す! 迫力のあるハレルヤコーラスに、美智子さまはクルリとこちらを振り向き、手を振ってくださいました。もちろん皇太子さまも……。
 作戦は大成功。美智子さまのアップを、私たちのカメラは四十五秒間とらえ続けることができたのです。ライバル局のカメラは、おふたりの後ろ姿を映すばかりでした。
 このときの美智子さまの笑顔は、あふれんばかりの健康美でありました。それを見た私は、「この方ときっと一生関わることになる」と感じていました。
 このご成婚パレードに携わって以来、私は同世代を生きてきたジャーナリストとして五十年以上、美智子さまを取材してまいりました。
 この本では、美智子さまの「エレガンス」の秘密を、とっておきのエピソードとともにお伝えしていきます。少しでも多くの人に、そのお心が届くよう願っています。

渡邉 みどり (わたなべ みどり)
ジャーナリスト、文化学園大学客員教授。 1934年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、日本テレビ放送網入社。報道情報系番組を担当(婦人ニュース・ワイドショー・木曜スペシャル)。 1980年、担当ドキュメント番組「がんばれ太・平・洋 新しい旅立ち! 三つ子15 年の成長記録」で日本民間放送連盟賞テレビ社会部門最優秀賞受賞。昭和天皇崩御報道のチーフプロデューサー、副理事。1995年、『愛新覚羅浩の生涯』(読売新聞社)で第15回日本文芸大賞特別賞受賞。 近著に、『写真集 美智子さまのお着物』(木村孝との共著 朝日新聞出版)、『日本人でよかったと思える 美智子さま 38のいい話』(朝日新聞出版)、『美智子さま 美しきひと』(いきいき)、『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(共にこう書房)、『とっておきの美智子さま』(監修 マガジンハウス)など。

作品紹介

美智子さまに学ぶエレガンス

日本女性としてお手本にしたい、皇后・美智子さまのエレガンス(気品)の秘密を、とっておきの写真とエピソードで紹介します。
定価:本体1,400円+税/学研プラス

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