「本屋さんとフェア」 マルノウチリーディングスタイル 北田博充さん 第2回
本屋さんのココ【第4回】「本屋さんとフェア」マルノウチリーディングスタイル
「本屋さんのココ」、第3回のテーマは「本屋さんとフェア」。今回お伺いしたのはマルノウチリーディングスタイル。1月1日から12月31日まで、それぞれの日に誕生日を迎える作家の本を集めた「BIRTHDAY BUNKO」や、70種類の心の症状に合わせて薬として本を処方する「ビブリオセラピー」など、独自のフェアが魅力的な本屋さんです。また、カフェを併設し、雑貨も積極的に扱うなど、本屋さんとして、新しい取り組みも積極的に行っています。今回は秋山史織さんと一緒に、マルノウチリーディングスタイル、マネージャーの北田博充さんにお話を伺いました。
独自のフェアを作る発想や、お客さんの反応、運営の苦労話まで。僕たち自身もお店を楽しみながらも、しっかりと「本を売る思い」をお聞きしてきました。
「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。
取材日:2014年11月24日
取材:松井祐輔、秋山史織
写真:片山菜緒子
構成:松井祐輔
【店舗情報】
マルノウチリーディングスタイル
〒100-7004
東京都千代田区丸の内2-7-2
JPタワー4F
電話:03-6256-0830
営業時間:月〜土11:00〜21:00
日・祝11:00〜20:00(祝前日は〜21:00)
定休日:不定休
すべてのお客さんに伝えたい
松井祐輔(以下、松井):今日はよろしくお願いします。
北田博充(以下、北田):よろしくお願いします。
松井:今日は取材の30分前くらいに集合して店内を見ていたんですが、途中からお客さんのように楽しんでしまいました(笑)。
秋山史織(以下、秋山):初めて来たんですが、とても楽しかったです。
北田:ありがとうございます。
松井:リーディングスタイルは今日取材に来ている2013年3月にオープンしたマルノウチリーディングスタイルの他に、「solid&liquid」という名前で2014年6月に町田にも出店、そして2014年11月28日には「solid&liquid 天神」がオープンしました。それぞれの新規店の本はすべて北田さんが担当されているんですよね。
北田:そうですね。今はマルノウチリーディングスタイルの実務を他のスタッフに任せて、僕はsolid&liquid 町田の店長として仕事をしています。
松井:今日は、「本屋さんとフェア」というテーマで北田さんにお話を伺いたいと思っています。それとリーディングスタイルは本の問屋である取次、株式会社大阪屋の子会社、という少し特殊な立ち位置のお店でもあります。その辺りの仕事の違いなども聞いてみたいと思っています。
(※取次:出版社と書店の間をつなぐ出版販売会社。出版物は原則、取次を経由して出版社から書店に配送される。その他、商品代金のやりとりや書店の販売支援などを行う。)
北田さんはマルノウチリーディングスタイルがオープンしてから、「BIRTHDAY BUNKO」や「飾り窓」、「ビブリオセラピー」など、いくつも面白いフェアを企画されますよね。企画を作る際に意識していることはありますか。
北田:「普段本を読まない人にどうやったら本を手に取ってもらえるか」ということは常に意識しています。「10人のお客さんがいたら、その中の1人に伝われば良い」という考え方もあるかもしれませんが、僕は「10人いたら10人に伝わらないといけない。少なくとも伝えようと努力したい」と思っているんです。だから自分が企画するものは“カジュアル”というか、本読みじゃない人、本を全く知らない人が見ても興味が持てるようなものを意識して作っています。
松井:確かに「BIRTHDAY BUNKO」などは、本読みじゃなくても雑貨感覚で楽しめる部分がありますね。
北田:そうですね。それと、汎用性のある企画を作りたい、とも思っているんです。
秋山:汎用性、ですか?
北田:汎用性というか、他の店でも使える企画、というイメージがあります。
松井:それは珍しいですね。普通、企画は独占したいものですよね。
北田:そこはいろんな書店と取引がある取次ならではの発想かもしれないですね。感覚としてはフェアではなくコンテンツを作っている、という気持ちです。
「ビブリオセラピー」も立川にある書店、「オリオンパピルス」さんと共同で企画しました。これは薬袋の中の本を入れ替えればどこでもできますし、場所も書店だけじゃなくて、それこそ「薬」ですから薬局で扱っても良い。他の場所でも転用できる企画を作りたい、ということは常に思っていますね。
取次の発想って汎用性が前提というか、自分のところだけでやっても意味がないじゃないですか。取引先の書店は様々だから、色々な書店に役立つアイデアを提供しなといけない。だから他の場所でも実現できるか、は常に考えちゃいますね。
何屋さんかわからないようなお店
松井:なるほど、確かにそうですね。それに、書店以外に本を卸す、という汎用性でもあるんですね。
北田:そうですね。先日、原宿にあるショップ「nico and…TOKYO」の本棚の選書を担当させていただいて、そこに「BIRTHDAY BUNKO」も置いているんです。だから書店だけじゃなくて他の業界、業種でも通用するものを作っていかないといけない、という気持ちです。
本って書店でしか買えないんですよね。でも、例えば花は花屋さんじゃなくても売っているし、極論、道端で摘んでも手に入る。本だけが書店じゃないと買えない、という環境は良くないと思うんです。どこでも本が買えるようになってほしいし、そうなるように企画を考えています。「nico and…TOKYO」に本を置かせていただけたのもその結果だと思います。
松井:僕も書店以外に本があるのは大切だと思います。リーディングスタイルも一見書店に見えないというか、もしかしたら書店だと思ってお客さんは来ていないかもしれない。でもそこに良い本があれば手に取るし、買ってくれる。それは“新しい本の売上”ですよね。
金額は少ないかもしれないけど、既存の売上の奪い合いではなく、新刊全体の売上を底上げしている。そういうことも考えると、本の在庫量や売り上げの大小と、「本屋であること」とは関係がない気がするんです。リーディングスタイルもオープンした時からずっと雑貨も食品も扱っていますし。
北田:何屋さんかわからないような本屋さんが今後は増えていくのかな、と。自分が行きたい店もそういう場所なんですよね。本屋らしい本屋に行きたいわけじゃなくて、何屋か分からない場所に本がある。そういう店が自分も好きなんですよ。だからリーディングスタイルもそういう店にしたいと思います。
「コンテンツ」を作っていく
松井:さっき汎用性は取次ならではの発想かも、という話がありました。北田さんも書店の仕事をされる前は大阪屋の社員として取次の仕事をされていたんですよね。
北田:はい。書店への営業などの仕事をしていました。そういう意味では、リーディングスタイルは雑貨やカフェとの複合を前提に出店しています。最初からカフェと雑貨と本を複合することで、利益のとれる書店のビジネスモデルを作りたい、という思いから作られたお店です。
業界全体として見ると、書店は本だけを売っていても粗利が低くて経営が難しい。実際に閉店も多い。そこで他の商材と組み合わせて店全体としての粗利を上げていこう、というコンセプトなんです。だから本だけを売る構成にはなっていません。品揃えを見ていただくと分かると思うんですが、新刊やベストセラーは一部を除いてほとんど置いていません。新刊、既刊問わず長く読まれる本を揃えて、良い空間を作る。それに魅力を感じてお客さんに来ていただいて、カフェや雑貨を見ながらゆっくり過ごしてもらいたい、と思っています。
松井:本だけで店を維持しようとすると、新刊を中心に売れる本をいかに確保できるか、という運営になってしまいがちですね。
北田:もちろん本にも売上目標はありますが、本自体に集客装置という側面もあるんです。それで今のような構成になっています。
秋山:そうだったんですね。
北田:店自体にこれからの書店のビジネスモデルを、という意味もあるし、そもそも取次は多くの書店に本を届ける仕事なので、自分の店だけで通用するものを作ってもしょうがないな、という気持ちがあるんです。だから企画をするときには、「フェア」ではなく「コンテンツ作り」という感覚があります。
実は「BIRTHDAY BUNKO」も他の書店チェーンに導入する予定があるんです。企画自体が一店舗に限らず他の書店でも導入できる体制になってきています。
松井:コンテンツを作って他の場所にも広めていく。
北田:それは書店に限らず、とも思っていますね。「nico and…TOKYO」もそうですが、異業種に本を卸せるのは嬉しいです。今までこんなところに本は売ってなかったよね、という場所が増えていくと楽しいですよね。書店ではないところに本を置く、少しずつそういう場所を増やしたいです。
次回はユニークなフェアが生まれたきっかけについてお話を伺います。
第3回 「本のプレゼントを増やすには」
松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)
1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。