今回のテーマは「本屋さんとイベント」。下北沢にある本屋B&B(以下、B&B)のオーナーである内沼晋太郎さんにお話を伺いました。B&Bは2012年7月のオープン以来、毎日かかさずイベントや講座を開催しています。またイベント以外にも、「ビールが飲める」「家具が買える」といった特徴も。
実は松井と、代官山 蔦屋書店に引き続き今回も一緒に回ってくれた秋山史織さんはB&Bのインターンスタッフとして、イベント運営の経験があります。そのせいか、会話は具体的なイベント運営やインターンの話にもなりました。
「イベントってどうやればいいの?」「毎日やるって大変じゃない?」「本屋さんのイベントはどういうものなの?」。そんな疑問に答えていただきました。
「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。
取材日:2014/10/17
取材:松井祐輔、秋山史織
写真:片山菜緒子
構成:松井祐輔
カギは「対談相手」「タイトル」「告知文」
秋山:イベントの企画や依頼をするときに気をつけていることってありますか。
内沼:「今こそこの人」という登壇者と、「その人がこの話をするなら」というのに合った対談相手、それに「行きたくなる」タイトルと告知文。これをひとつひとつ吟味して、しっかりと企画していくことですね。僕たちもまだまだ、満足にできていませんが。
登壇者も大切ですが、それ以上に誰と話してもらうかが大切なんです。相手によって話が何倍にも膨れ上がるし、企画の文脈も変わってきます。さっき話した勝間和代さんのイベントも、ちょうど勝間さんが『有名人になるということ』(ディスカバー21)という本を出されていたので、下北沢を中心に活動する芸人さんを呼んで彼らに勝間さんがアドバイスする、「勝間さん、どうやったら有名人になれますか?」という企画にしました。そもそもオープン時のイベントは「下北沢特集」ということで、B&Bがある下北沢にちなんだ企画を連続で開催することにしていたんです。下北沢って、昔からミュージシャンやアーティスト、俳優など夢を持つ若者が多いイメージがありますよね。そこで下北沢×勝間和代さんという文脈で、このタイミングで勝間さんを下北沢に呼ぶ、その理由はなんだろう、どうやったら面白くなるだろうと考えた結果がその企画だったんです。
タイトルはやはりキャッチコピーとして重要です。イベントの内容が端的に伝わって、かつ魅力的と思わせるものを心がけます。
それと告知文。これは当然お客さんに向けて内容を説明するものなんですが、この告知文の内容が登壇者とお客さん、そして企画者の共通認識になるんです。こういう内容を話す、聞く。最低限の台本のような役割が、告知文にあると思っています。出ていただく方にもよりますが、基本的にいわゆる台本や進行スケジュールはあまり作り込まないようにしているんです。やっぱりイベントはリアルな場で生の声を聞けることが魅力のひとつなので、予定調和ではない「何が起こるかわからない感じ」が登壇者にもある方が面白い内容になると思うんです。ただ、最低限の約束事はないと、お客さんもお金を払ってまで見に来ようとは思わない。そこで告知文が、お互いの「こういうことを話すよ」という約束事として機能するんです。もちろん、しっかり作り込んだほうが面白くなる企画もあるのでケースバイケースですが、告知文にはそういう役割もある、ということですね。
松井:かなり考えて企画されていますよね。作業も大変だと思うんですが、イベントは何人くらいで企画されているんですか。
内沼:イベントの責任者がひとりいて、基本的にはその人が毎日の企画と集客の目標などを管理しています。ただ企画自体はスタッフ全員でやっていますね。責任者以外も、主要なスタッフは毎月の企画数の目安を決めています。その上で責任者以外は全員、書店員としてB&Bで働いているスタッフです。「毎日やる」という前提でやっているので、イベント企画や運営は日常の仕事として全員でやっているんです。イベントは1日でも空きを作ったらいけない、というルールはB&Bの根本を支えるもので、ビールを売っている、本を売っている、もっと言えば毎日オープン時間には必ず店を開ける、というルールと同じようなレベルでスタッフ全員が共有していますね。スタッフの人数は多くなくて、責任者ひとりと書店スタッフ5名前後といった構成ですね。土日は2回開催するので、毎月約40回。その枠を全員で埋めていきます。
松井:出版社からの持込み企画もあると思います。B&B企画と外部からの持込み企画、どのくらいの比率なんですか。
内沼:半々くらいでしょうか。やっぱり続けていく中で持込みの数は増えていますね。ただ、持込み企画のまま実施、ということはほとんどありません。企画概要や対象書籍は決まっていても対談相手が決まっていない、あるいはこちらからお願いして対談相手をセッティングする場合などもあります。持ち込まれた段階でタイトルや
告知文、対談相手などがしっかり決まっていて、すぐに実施できるような企画でも、それがB&Bのテイストと違うなと思う場合はタイトルや対談内容を変えたりしながら調整していくこともありますね。
松井:やはり主体的に関わるということは大切なんですね。代官山 蔦屋書店の渡部さんも持込み企画であっても「必ず改めて企画書を書くか、しっかり打合わせをするようにしている」と言っていました。
イベントにちょうど良い会場規模は?
松井:イベントの目標設定はどうやって管理していますか。毎日やると管理も大変ですよね。
内沼:そうですね。今はいちばんわかりやすい指標として、「集客30人」を目安にしています。この30人という規模は、学校の1クラス程度ということで、目標としてリアルにイメージしやすいんですよ。それに「頑張れば集められる規模」というのもいいですね。親戚や友達、会社の同僚。大抵の人は30人くらいならリアルに顔の浮かぶ知り合いがいると思います。イベントとしてそれがいいかは別にして、30人は努力で集められる規模なんです。もちろんその難しさは人によって様々で、1回ツイートするだけで簡単に30人集まる人もいれば、とにかく頑張って30人集める人もいる。ただ、登壇者だけでなくB&Bのスタッフも含めて、みんなで頑張れば集められる、という意味で良い目標ですね。
やっぱりB&Bでは、有名人だけじゃなくていろんな人を呼びたい、いろんな実験的な企画をやりたいんですよ。例えば100人規模の会場だと、個人の力で集めるのは限界があります。それなりに集客できる人や企画じゃないと成立しない。でも30人規模なら、いろんな企画にチャレンジできる。イベントに多様性を持たせるのに、30人はちょうどいい規模なんです。
B&Bは最大50名入っていただくことができるんですが、このスペースもちょうどいい規模ですね。イベントによってテーブルや椅子の配置でスペースを調整するんですが、ゆったりとした15人規模の会場にすることも、50人しっかり入ってもらう会場にすることもできる。空間調整がしやすいんです。これが100人規模の会場だと、さすがに60人、あるいは30人しかいなかったら、どんなにレイアウトを調整しても閑散とした雰囲気になってしまいますよね。そういう環境で毎日イベントを企画するのはさすがに大変。でも今のB&Bくらいの規模ならやっていける。これはB&Bを続ける中で実感しましたね。
次回は、イベントと本棚、そしてB&Bと大型書店の関係について伺います。
第4回「B&Bにとって競合って?」
松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)
1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。
本屋B&B
〒155-0031
東京都世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
電話:03-6450-8272
営業時間:12:00〜24:00
定休日:なし
http://bookandbeer.com
バックナンバー
- 「本屋さんとイベント」本屋B&B 内沼晋太郎さん第1回
- 「本屋さんとイベント」本屋B&B 内沼晋太郎さん第2回
- 「本屋さんとイベント」本屋B&B 内沼晋太郎さん第4回
- 「本屋さんとイベント」本屋B&B 内沼晋太郎さん第5回