今回のテーマは「コンシェルジュの仕事」。代官山 蔦屋書店にお邪魔しました。代官山 蔦屋書店は2011年12月にオープン。「森の中の図書館」をテーマに、カフェやレンタルスペース、旅行カウンターまで設置された本屋さんです。中でも特徴的なのがそれぞれの分野で深い知識や経験を持つという「コンシェルジュ」の存在。そもそも「コンシェルジュ」って何?他のスタッフと何が違うの?

『本屋さんのココ』では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の皆様の視点に立ったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。 今回は、大学生の秋山史織さんと一緒に、代官山 蔦屋書店ビジネスコンシェルジュ、渡部彩(わたなべあや)さんに店内を案内していただきながら、お話を伺いました。

「本」と「物」の親和性を高めて、両方のストーリーをうまく打ち出したいですね。

松井:なんだか「本屋」という業態ではなく、「代官山 蔦屋書店」という場所とコンセプトが中心にあって、それにあわせて「商品」を選ぶ。今はその中心が「本」、という感じですね。うまく言えないんですが、「本屋」というより、「蔦屋」という意識が中心にある感じで。

渡部:そうですね。スタッフ同士でもよく「もし5年後に本がなくなったらどうするか」という話をするんです。私も最初はびっくりしたんですが、でも“そういうこと”なんですよ。5年後の未来が描けているか。本がないとするときっと、CDやDVDのレンタルもダメになっているから……じゃあ自分たちがメーカーになったらどうか、とか(笑)。

松井:代官山 蔦屋書店だからこその発想かもしれないですね。

渡部:とはいえ、全国のTSUTAYAの旗艦店として代官山蔦屋「書店」と銘打っている以上、あくまで「書店」なんだと思います。まだカルチャーには本が必要。ただ、本が売れなくなったから闇雲に物販をする、ということではなく、もっと「本」と「物」の親和性を高めたいです。「本」から始まる「物」もあれば、「物」から始まる「本」もある。その両方のストーリーをもっとうまく打ち出したいですね。代官山 蔦屋書店自体はまだまだ本を売り続けると思いますが、その提案の形態が変わる。そういう考え方にシフトするために「本がなくなったらどうする?」という問いかけがあるんだと思います。自分たちで自分たちを盛り上げる、店全体でモチベーションのセルフコントロールがとてもうまいですね。

秋山:すごい! 自発的なんですね。

自分たちの選んだ本を、自分たちの手で陳列して、自分たちで売る。

渡部:スタッフ全体で自発性はすごくあると思います。自分たちで率先して手を挙げる、というか。品揃えでも、いい本は売れるんだから、新刊でも既刊でも、発行部数の少ない本でも、とにかく手に入れる。やはり責任感が大切だと思うんです。自分たちの足で立っているという感覚。自分たちの選んだ本を、自分たちの手で陳列して、自分たちで売っている。その一連の行程をすごく意識的にやっていると思います。実際に自社で発行している本もあれば、プロダクトにかかわっているスタッフもいる。そうすると製作の現場から販売まで、一連の作業を蔦屋書店だけで感じられる。そういう感覚、環境の影響は大きいですよね。なかなか味わえないことだと思います。

松井:自分たちで責任を持ってやる。

渡部:それが今、大事なことなのは間違いないと思います。今って、テレビで紹介されているから買うとか、他の人も買っている話題の本だから買う、とか。連続刊行されているシリーズが多いのも、既に面白いことが分かっているから買っている部分が大きい。全体的に「選択する力」が弱くなってきているんじゃないかと思うんです。それを書店員の仕事に置き換えると、入荷が少なかったときに出版社や取次のせいにしたり、営業さんに勧められて仕入れた本が売れなかったことを、その営業さんのせいにしたりすることと似ている気がして。でもそれって、事前に仕入れ交渉しなかった自分、仕入を決断した自分のせいでもありますよね。そういう、他の人のせいにしたり、責任を持って決定できないことと、お客様の選択する力が弱くなっていることはリンクしていると思うんです。負のスパイラルっていうか、自分たちで責任をもって選択していかなかった結果、お客様も選択できなくなって、全体が衰退していく。どこでも同じ本や、人任せに仕入れた本しか並んでいなかったら、どうやってもAmazonのほうが便利だからそちらから買いますよね。だから当たり前の結果として、現状の本屋があるんだと思うんです。それを引き戻すためには、自分で選ぶこと。そのために、お客様をちゃんとリサーチして、求められている像を考える。求められるために何が必要なのかを考えて選択すること。そこですよね。

分類できないまま並べるのはお客様への「提案」じゃないですよね

松井:そういうなかで、代官山 蔦屋書店ならではの「選択」ってありますか。

渡部:私の担当のビジネス書だと、普通の書店では大きく展開しているコーナーがないんです。何か分かりますか。

秋山:……?

渡部:ビジネス書売り場なんですが、「自己啓発」のコーナーがないんです。「自己啓発本」は、スキルアップ系と成功法を紹介したものが多いんですが、それをちゃんと分類しようとすると著者の成功法の紹介になってしまうことが多いんです。私たちが提案したいことは、成功法を読んでその人の気持ちになるだけでなく、読んだ人自身がそうなれるように、その後押しをすることなんです。だから大きく分けて、経済、経営、マーケティングなどビジネスの基盤で知識の部分である「ワークスタディ」、働く上でのツールや武器、マインドマネジメントの「ワークスキル」、働き方の「ワークスタイル」という形で置いています。

松井:そこの線引き、なんとなくだけど分かります!僕が担当している小屋BOOKSも「働き方の総合書店」というコンセプトでやっていますが、同じように自己啓発本はあまり置いていないです。それはなんというか……ニュアンスなんですよね(笑)。

渡部:そうなんです!同じように見える本でも、著者や編集方法によって少しずつニュアンスが違うんですよね。そこが細かく線引きできるかどうかが重要だと思います。本屋さんでときどき「その他」のコーナーがあるじゃないですか。それは作っちゃいけないですね。「その他」ということは、分類できていないということ。それは「分けて」いるだけで、お客様への「提案」じゃないですよね。

松井:自分が分類できていないものは提案じゃない。

渡部:そういう商品は最初から仕入れない方がいいし、それをちゃんと線引きできたときに初めて内容を理解できる、本と対話できていることになると思うんです。そう考えたときに「自己啓発」としてまとめてしまうと、曖昧なくくりになってしまって、「その他」に近い棚になってしまう。だからコーナーにしていないんです。

松井:それは代官山 蔦屋書店ならではの線引きでもありますよね。代官山 蔦屋書店に置かないような自己啓発の本でも、他の本屋さんではちゃんと分類して提案できるかもしれない。その線引きは本屋さんごとに違う。「その他」の本がダメなのではなく、「その他」にしか分類できないままお客様に提示してしまうことが良くない、ということなんですよね。

渡部:そうですね。同じチェーン店でも立地が違えばお客様も違うので、そのお店ごとの差を認識して、それぞれに合った売り場を作っていけば店のカラーができてくる。その中で棚の配分も変わると思います。逆に自己啓発本コーナーが店のウリになってもいい。自分たちの店はどういうお店なのか。蔦屋書店もそうですが、たとえチェーン店であっても、個々の店ごとにお客様とちゃんと向き合うべきなんでしょうね。

私たちもちょっと手を抜くとすぐに「その他」のコーナーができてしまいますから(笑)。常に考えながら仕事をしないといけないですね。

 

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

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