「コンシェルジュの仕事」代官山 蔦屋書店 渡部彩さん 第2回

本屋さんのココ【第1回】「コンシェルジュの仕事」代官山 蔦屋書店

更新日 2020.07.16
公開日 2014.09.12
  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

今回のテーマは「コンシェルジュの仕事」。代官山 蔦屋書店にお邪魔しました。代官山 蔦屋書店は2011年12月にオープン。「森の中の図書館」をテーマに、カフェやレンタルスペース、旅行カウンターまで設置された本屋さんです。中でも特徴的なのがそれぞれの分野で深い知識や経験を持つという「コンシェルジュ」の存在。そもそも「コンシェルジュ」って何?他のスタッフと何が違うの?

『本屋さんのココ』では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の皆様の視点に立ったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。 今回は、大学生の秋山史織さんと一緒に、代官山 蔦屋書店ビジネスコンシェルジュ、渡部彩(わたなべあや)さんに店内を案内していただきながら、お話を伺いました。

書棚に本を並べる作業って、雑誌のレイアウトと一緒だと思っているんです。

松井:他の書店員に比べて、コンシェルジュに求められることってなんなんでしょう。

渡部:書店員さんって皆さん、本に詳しくて本が好きな方だと思うんです。その上でコンシェルジュに求められるのは、「好きが好きを超えていて、さらに企画ができること」だと思います。例えると、雑誌のページのような売り場が作れる人。レイアウトの美的感覚であったり、情報をいかに仕入れるかという好奇心と、それをどう活かすかという企画力。それはただ本が好きなだけでは実現できない部分なんです。ある程度キャリアのある書店員であれば出版社の営業さんと仲良くなったり、クライアントや著者の方とお会いすることで人脈は広がると思うんですが、それを活用できるかどうかはキャリアとは違う、その人自身のスキルなんです。人脈や情報に加えて、好奇心や、それらを活用するスキルも持っている人がコンシェルジュです。

代官山 蔦屋書店のスタッフって一見、優雅に仕事をしているように見えませんか?

秋山:本屋さんって、何十人もレジに並んだり、問い合わせが多かったりと、忙しく働いているイメージがありますね。確かに代官山 蔦屋書店ではそういうイメージはないかも。

渡部:そうなんですよ。もちろん店の雰囲気作りという部分も大きいんです。でもバックヤードではみんな忙しく働いているんですよ。スタッフそれぞれの「やりたい」という気持ちがすごく大きいので、責任感も違いますね。イベントや企画で関わる相手はプロフェッショナルの方がほとんどなので、仕事の一つ一つに神経を研ぎすませていろんなアクションをしています。

私が担当している1号館、ビジネス書売り場もまだまだ工夫できるところがありますね。

松井:知識や経験だけではダメなんですね。

渡部:大きな違いは「編集力」だと思います。代官山 蔦屋書店には、元雑誌の編集長だったり、トラベルライターだったり、様々な経歴のあるコンシェルジュがいますし、アートディレクターの方のお力も借りて売り場を作っています。そういう中で、私は書棚に本を並べる作業って、雑誌のレイアウトと一緒だと思っているんです。

情報収集の手段がたくさんある中で、今みんなが雑誌を買う理由って、内容はもちろんなんですが、その情報がしっかり編集されていて、しかも適切なフォントで、ちゃんとレイアウトされているからですよね。情報の取捨選択や配置の仕方、魅せ方。その知識があるかないかで、売り場作りにも歴然とした差が出ますね。それは日常の過ごし方も同じで、ファッションから、仕事まで、全部そうだと思うんです。そういうバランスが取れているかどうか。ただ「本が好き」なだけだと、バランスが悪くなってしまうと思うんです。

松井:渡部さんも最初の仕事は本屋から始められていますよね。なぜ、そういう認識に変わることができたんですか。

渡部:それは出版社で仕事をしたことが大きいと思います。一度出版社に入ることで、今度はクライアントが本屋さんになった。そこで書店員の仕事を俯瞰できたんです。良い部分だけじゃなくて、無駄じゃないかなと思う仕事、逆に欠けている仕事も見えてきて。そこを埋めていけば、もっと本屋さんもいろいろなことができるんじゃないかな、と。そういう部分を本屋さんと相談しながら埋めていく。それが出版社時代の営業スタイルでもあったんです。その経験が活きているんだと思います。熱心になるのはいいことだと思うんですが、客観的に見ることも大切ですね。

秋山:いまコンシェルジュは何人くらいいらっしゃるんですか。

渡部:代官山 蔦屋書店全体で30名以上のコンシェルジュがいます。そのコンシェルジュがコンセプトワーキングから全てをします。だからやっぱり「編集」しているんですね。

秋山:「コンセプトワーキング」というのは?

渡部:「売り場でお客様に伝えたいこと」の編集ですね。代官山 蔦屋書店全体のテーマは「ライフスタイル」になるんですが、これがビジネス書売り場だと「ワークスタイル」になるし、文芸だと「読み方」になります。この文芸作品はミステリーの観点で読んでも面白い、とか。そういう新しいスタイルを提案していくことがそれぞれの売り場での「ライフスタイル提案」になります。コンシェルジュはその提案を自分で作り出せる人。だからやりたいことがある人、というのが一番コンシェルジュに向いていますね。まずやりたいことがあるというのが大前提で、その上でそれを具現化できる力があるかどうか。具現化の方法は人それぞれですが、それができるかどうかです。

 

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

バックナンバー

  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

あわせて読みたい