パイロット版原稿とは、本の書き始めにあたって、文章のテイストを確認しあうための、最初の試し原稿のことである。
バンクーバーオリンピックが終わって1週間後、吉田さんからメールで、パイロット原稿がきた。バンクーバーでの演技を見て、こから読み取れる思いを文章にしてみました、と。
そこには、原稿用紙に換算して5枚ほどの分量でフリーの「モクスワの鐘」の4分間が描かれていた。フィギュアの演技を、たった4分間を、こんな分量でもって、そして、これだけの感情溢れる描写でできるのか。
驚いた。しかし、過剰過ぎる。そこに描かれているのは、マッチョで猛々しい魂をもったアスリートである。ミスタッチとはいえ、リンクがリングになってしまっている。これじゃ、格闘技だ。率直に感想を伝えて、吉田さんに原稿を手直ししてもらった。
手直しをした原稿を、情報は、映像で見た演技のみ。あとは、吉田さんのイマジネーションで書きましたと断りを入れたうえで、マネジメント担当のWさんに、原稿を送った。いわゆるパイロット版として原稿だったが、Wさんは、笑いながら、感想を伝えてくれた。
「ぜんぜ~ん、違います! いわゆるがっちがちのアスリートっていうのとも違うんですよ。真央って。まぁ一度、会っていただくのが一番だと思います。今度真央が東京に出てくるときに、スケジュールを出しますので、『実物』と話してみてください。それが早いと思います」