『徒然草』が名随筆なのは、兼好のフットワークが軽かったから。

千田琢哉『20代で知っておくべき「歴史の使い方」を教えよう。』セレクション

更新日 2020.07.30
公開日 2017.07.31
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 あなたの周囲に、出世コースに乗ってエリート街道まっしぐらだったのに、惜しげもなくあっさりと途中下車し、飄々と好きなことをして生きている人はいないだろうか。
 現代でも官僚や医者、超一流企業勤務を辞めて作家や歌手、役者などへ転身する人がいるが、それに似ている。
 今から約700年前の鎌倉時代末期にもそんな男がいた。
 それが兼好法師こと吉田兼好だ。
 もともと彼は朝廷の役人であり、蔵人(くろうど)と呼ばれる天皇の側近を務めていた“超エリート”である。
 ところが、彼は30歳頃にあっさりと役人を辞めて、出家してしまう。
 そして、どこの寺の組織にも属さないで、一人で飄々と生きることに決めたのだ。
 もうこれだけでフットワークの軽さがわかるし、彼のような人間と話してみたいという気持ちになるだろう。
 私はこんな男がどんな発想をしてどんな文章を書くのかを想像するだけで、もう、一人でワクワクしてしまう。
 実際に、兼好の人間社会に対する洞察力は天才的で、歴史に残る名随筆を書き上げた。
 それが「つれづれなるままに……」で始まる『徒然草』だ。
“つれづれ”とはいつも同じことの繰り返しで退屈という意味だが、兼好はこれを、日常の些細なことから大きくて明るい未来を見つけ出すというふうに発想を転換した。
『徒然草』は「出世のコツ」「いい男の条件」「読書とは古人との対話である」「孤独」「会話と教養」など、現代版ビジネス書、自己啓発書のような内容で溢れ返っている。
 吉田兼好は鎌倉時代から現代に至るまで約700年にわたって売れっ子であり続ける、超ロング&ベストセラー・ビジネス書作家なのだ。
 彼が一流のビジネス書作家として君臨し続けられるのは、フットワーク軽く、常に世間と接点を持って対話を続けたからだ。

(※この連載は、毎週月曜日・全8回掲載予定です。8回目の次回は8月7日掲載予定です。)

 

千田 琢哉 (せんだ たくや)

文筆家。 愛知県犬山市生まれ、岐阜県各務原市育ち。 東北大学教育学部教育学科卒。 日系損害保険会社本部、大手経営コンサルティング会社勤務を経て独立。 コンサルティング会社では、多くの業種業界における大型プロジェクトのリーダーとして戦略策定からその実行支援に至るまで陣頭指揮を執る。 のべ3,300人のエグゼクティブと10,000人を超えるビジネスパーソンたちとの対話によって 得た事実とそこで培った知恵を活かし、 “タブーへの挑戦で、次代を創る”をミッションとして執筆活動を行っている。

■E-mail
info@senda-takuya.com

■ホームページ
http://www.senda-takuya.com/

作品紹介

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