◆行動を原因からではなく、目標から考察する
決定論(または原因論)とは、世の中のあらゆる出来事を原因で説明する態度です。この立場では「Aが起こった原因はBにある」のように、何らかの現象が生じた原因を人や物ごとに結びつけます。
これに対して、人がとる行動はその人が持つ目的や目標に従った結果だと考える立場があります。決定論とは考え方に大きな隔たりがあるこのような立場を、目的論と呼びます。
アドラー心理学では、決定論ではなく目的論の立場から、人間の行動や心理をとらえる点が大きな特徴になっています。
アドラーはこう言います。
「もし、この世で何かを作るときに必要な、建材、権限、設備、そして人手があったとしても、目的、すなわち心に目標がないならば、それらに価値はないと思っています」(「劣等感ものがたり」)
極めて自明のことながら、確かにアドラーが言うように、「このようなものを作ろう」という目標がなければ、手元に素材があっても何の役にも立ちません。仮にその素材がとても素晴らしいものであったとしてもです。
アドラー心理学では同様の考え方を人の生き方や性格にも適用し、人が生まれつき持っている素質よりも、それをいかなる目的に従って、どう使うかに注目します。
「上手にできないのは素質のせいだ」。このように考える立場が決定論です。これに対して「上手にできないのは誤った目標のせいではないか」「素質の使い方を間違っているのではないか」と考えるのが、目的論を基礎にしたアドラー心理学です。
◆目標がなければ有用な行動も生まれない
右に引用した言葉に続けてアドラーは次のように語っています。
「実際に目標があるとしましょう。水道やあらゆる近代的利便性の備わった10部屋の家屋を建てると想像してみてください。そうしたら、その目標に最もふさわしいように、建材や設備や作業員をまとめて、うまく働かせることができるでしょう。仕事をうまく監督することができるでしょう。なぜなら、あなたは自分がどうしたいかを知っているのですから」(前掲書)
アドラーの言う「家屋」とは、その人の人生と言い換えられます。こうしてアドラー心理学では、「すなわち人間の精神生活というものは、目標によって規定されている」(『人間知の心理学』)とアドラーが言うように、目標の重要性を徹底的に強調します。
中野 明 (なかの あきら)
ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。
著書は『物語 財閥の歴史』(祥伝社新書)、『グローブトロッター 世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』『今日から即使える! ドラッカーのマネジメント思考』(朝日新聞出版)ほか多数。
作品紹介
超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本
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