「本屋さんのココ」、第4回のテーマは「本屋さんと選書」。東京都文京区白山にある「双子のライオン堂」に伺いました。
双子のライオン堂は2013年に店主の竹田信弥さんが始めた、新しい本屋さん。その特徴は「選書」専門店であること。店には辻原登、山城むつみ、東浩紀、など、著名な批評家、小説家の選書した本が並びます。
(双子のライオン堂、選書者の一部→ http://liondo.jp/?page_id=23)
なぜ「選書」専門店のスタイルが生まれたんでしょうか。また、本屋さんが減っている、と言われるなかでどうして、そしてどうやって双子のライオン堂をオープンしたんでしょうか。しかも最近、双子のライオン堂で「本屋入門」という本屋さんのための講座も行っているようなのです。これは話を聞きに行かないと!
今回は、講座「本屋入門」の共同企画者でもあり、本屋をもっと楽しむポータルサイト「BOOKSHOP LOVER」を運営していて、竹田さんとも親交の深い和氣正幸さんをお呼びし、一緒にお話を伺ってきました。
「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。
取材日:2015年2月28日
取材:和氣正幸、松井祐輔
構成、写真:松井祐輔
【店舗情報】
双子のライオン堂
〒113-0001
東京都文京区白山1-3-6
営業日:毎週火曜日、土曜日 13:00〜21:00
【「本屋」という拠り所——18歳で始めた古本屋】
松井:竹田さんがライオン堂を始めた経緯も聞いてみたいです。「BOOKSHOP LOVER」でのWeb連載によると、最初はネットで古本屋をやっていたんですよね。
竹田:高校2年生のころにネットで古本屋を始めました。
和氣:古物商の免許が取れなくて苦労したんだよね。
竹田:最初の反応が「その年齢で古物商免許を取るの?」、という感じ。そもそも何歳から古物商を取れるかを確認する状態から始まって(笑)。それにネット古書店自体、まだ珍しい時代だったんですよ。
和氣:10年前くらい?
竹田:ちょうど10年前。各家庭にやっとパソコンが入り始めて、ある程度誰でもネットに繋がれるようになってきたくらいかな。GoogleもAmazonもまだメジャーじゃなくて。
松井: Amazonの日本上陸が2000年ですからね。まだまだ発展途上だった時期ですね。
竹田:そういう中で、「無店舗でインターネットを使って商売をする」ということ自体が珍しくて。いろんな質問をされましたね。
松井:そこまでしてでも、古本屋を始めたかったんですか。
竹田:古物商を取るのもひとつの「決意」の現れだと思って。
松井:「決意」……。
竹田:当時は小説を書きたいと漠然と思っていた時期だったんです。そこで小説まではいかなくても、表現法のひとつとして「いろんな本をみんなに広められれば」と考えたんです。少し学校や友達とも距離を置いていた時期でもあって。そういう中で、思いを投影するものは本だったし、大げさに言えば「本を売ることを通じて何かと繋がる」という感覚があった、というか。そういうイメージで古本屋をやろうと思ったんです。
そこで、ちゃんと古物商を取る、というのが明確なステップだったんです。免許として形になるものだし、ちゃんと「やった」という証明がそこにあると思ったんですよ。それで悪戦苦闘しながら交渉しました。結局、18歳以下は取得できなくて、それでも諦めずに親の同意書を出したりして。そういうやり取りに時間をかけているうちに、僕自身が誕生日を迎えて18歳になって。そうして晴れて古物商免許を取得できたんです。
松井:そこからずっとインターネットで古本屋を続けたんですね。リアル店舗を開いたいまでも続いていますよね。
竹田:それはもう「自分のアイデンティティ」のようなもので。それから高校を卒業して大学に行ってからも、自分の中で「人と違う何か」というのが「古本屋」で、いろんな拠り所になっていたんです。だからずっと辞めずに続けました。売上はそこまで大きくなくて、自分の本代を稼いで、古本屋の売上で買った本をまた自分の古本屋で売る、というような。ちょっとしたお小遣いくらいでしたが。
和氣:でも大学卒業後は古本屋にならずに、一般企業に就職するんだよね。
松井:それでも古本屋は辞めずに……。
竹田:そうなんですよ。仕事は大変だったし、休日出勤もあったんですけど、そういう中でも「本屋」というアイデンティティが拠り所になっていました。すごく疲れて深夜に帰ってきても、在庫の整理をして淡々とサイトにアップしたり。本当に地味な作業なんですけど、忙しい生活の中でそれが救いになっていた時期でもありましたね。
【ネット古書店がリアル店舗に】
松井:でも、そうした長いネット古書店の活動とリアル店舗の立ち上げは直接繋がらないですよね。どうしてリアル店舗を始めることになったんですか。
竹田:「出会い」、というしかないですね。もちろんいつか本屋をやりたいという漠然とした思いはあったんですが、お金に余裕もなかったし、すぐに始めようとは考えていなかったんです。そういう中で、偶然いまの物件のオーナーと出会ったんです。本とは全然関係ない仕事がきっかけだったので、本当に偶然ですね。いまの物件って、もともと季節商品の倉庫だったんですよ。
松井:クリスマス商品とか。一時的に大量に必要になる在庫を置いておくスペースだったんですね。
竹田:そこでオーナーが、「ここはシーズンが終わると空になっちゃうんだよね」、と。それで僕が、「ネットで古本屋をやっていて、ここを在庫置き場にしたいんです」とお願いしたんです。
松井:なんだかそれはとても合理的な気がしますね……。
竹田:さらに「週1回くらい、店としても営業していいですか」、と。
和氣、松井:おおっ!
竹田:軽いノリで言ってみたんですが、意外にもオーナーさんが乗ってくれて。そこであれよあれよという間に、リアル書店を開くことになりました。本当にそれまでは「いつか本屋を」という感覚だったんですけどね。
和氣:その「いつか」が思ったより早かったんだね。僕と竹田くんが出会った「いつか自分だけの本屋をやるのもいい」という講座のはじめのころはそんな話は全然してなかったよね。それが講座の期間中に本当に「本屋をやります」って。あれは驚いたなぁ。
竹田:講座の1回目のころは「いつか本屋をやるのもいい」というくらいの気持ちだったんですよ。それが講座期間中にさっきの物件の話があって。
和氣:そうだったんだ!
竹田:だから講座の後半は「“いつか”本屋を〜」という講座に出ながら“いま”開店準備をしている状態で(笑)。
松井:急展開ですね。躊躇することはなかったんですか。
竹田:やりたいことは実践してみる、機会があればとりあえずやってみる、ということは古本屋を始めた高校生のころからありましたね。多少失敗しても生死に関わることじゃない、と。とはいえ、僕もやる前に相当考えて、悩むほうなんですよ(笑)。でも実際にやってみたら、いくらでも進むんですよね。面白いことに。その時だって、開店の話が講座の最中だったことで「選書」専門店というアイデアにも繋がっているんです。
松井:繋がって、進んでいますね!
【新刊本を仕入れる】
松井:それからの品揃えや仕入れも大変ですよね。いまのライオン堂は新刊本も扱っていますが、どうして新刊も扱うようになったんですか。
竹田:在庫がなかったんです。店のコンセプトが決まって、お願いしたい選書者の方に選書もしてもらって……。でもそうしたら、うちにある古本の在庫がなかったんですよ。
松井:選書してもらった本の在庫がない。
竹田:選んでいただいた本って、当然いい本が多いので、例えばAmazonで調べると古本でも安くて500円くらいするんです。仮に品揃えのためにAmazonからその本を仕入れて店の利益をつけて売ったら、ほとんど新刊と同じ値段になっちゃう。そこがひとつの大きな壁になっていたんですよ。
和氣:そこで新刊だったんだ。
竹田:いまも読まれる名著であれば、むしろ新刊のほうが揃うので。
松井:それはよくわかります。でもどうやって仕入れたんですか。
竹田:とりあえず大手の新刊取次に電話しました。
松井:ガンガン行きますね! いきなりそれは、かなりハードルが高いですよ。
竹田:無謀ですよね。そこでいろいろ話をしたんです。とりあえず「事業計画書をください」と言われたんですけど、そういう状態じゃなくて、そもそも貯金も全然なくて(笑)。
松井:うーん、ビジネスですからね。それはしょうがないかも。でも個人規模の店でちょっと新刊を仕入れたい、というときは大変ですよね。
竹田:それでインターネットでいろいろ調べたら、もっと小さな取次がある、ということがわかって。どうやら「神田村」というところがあるらしい、と。
松井:東京の神田、神保町界隈にある本の問屋街ですね。人文書や医学書など、専門分野を持っている小さな取次が集まっているんですよね。
竹田:それで実際に行ってみたんですよ。最初は「素人はお断り」、という感じで入りづらくて。それでも勇気出して「いまから本屋やりたいんですけど、新刊を仕入れたい」と言ったらある取次の人が面白がってくれたんですよ。それがたまたま社長さんで、1時間くらい話を聞いてもらって。それで「じゃあ、やろう」、と。
その日のうちに神保町の他の取次に社長さんが一緒に挨拶回りに行ってくれて。「こいつ若いけど面白い奴だから、よろしく!」みたいな(笑)。そこで新刊が仕入れられるようになった、と。まとめると簡単な話をなんですけど。
和氣:いやいや(笑)。それすごい話でしょ。
松井:本当ですよ(笑)。インタビューの冒頭でも話をしましたけど、条件は買い切りですか?
竹田:そうですね。買い切りならいいよ、という話で。
松井:小屋BOOKSも同じです。それで取次まで商品を取りに行くんですよね。結局、新刊の仕入で一番難しいのは掛取引の信任金や送料負担の問題。取次まで取りに行って、その場で現金で支払えばある程度、その問題はクリアできます。取りに行くのは大変ですけど(笑)。
和氣:いまの話で面白かったのは、大手取次がダメだった時に自分でインターネットを調べたら、小取次の情報がわかったということ。インターネットの存在って大きいよね。
竹田:大きいですね。大手取次がダメだったから、「新刊 大手 以外」みたいなワードで検索したんですよ。そしたら小さな個人ブログが出てきて。書店員さんのブログだったのかな? 注文品がなかなか入荷しない、という内容のブログのコメント欄に、「私は神田村で買ってきます。便利ですよ」というようなことが書いてあって。そのコメントを見て、小さな取次もあるんだな、と調べたら、神田村のことがわかったんですよ。
松井:本当に自分で調べたんですね。流通に詳しい知り合いとか、取次とつながりがあったわけじゃなくて。
竹田:古本は昔からやっていたので、そのつながりはありますけど、新刊本は本当にはじめてで。本屋でバイトをしていたことがあったので、取次の存在くらいは知っていたんですけど。
松井:まさに行動力ですね。新刊と古本は仕入れ方法も利益率も全然違う。人によっては全く違う商品だという意見もあるくらいです。一緒に売っていて、どうですか。
竹田:ライオン堂では完全に同じ棚に混ぜちゃっていますね。僕はただ単に、自分のことを垣根なしに本を扱っている、「本」屋だと思っているんです。僕は本を売りたい。だから新刊、古本、もっと言えば同人誌とか関係ないんですよね。差があるとしたらその本を読んでいるかどうか。要は「未読本」と「非未読本」があるだけなんです。だから僕の中では新刊と古本の違いはあまり感じていなくて。
松井:うーん、確かに。本を読むのに新刊も古本も関係ないですしね。
竹田:新刊も少しずつ増えていって、いまの店の形になっているんですよ。松井さんが最初にライオン堂に来られたころはほとんど古本だったんじゃないかな。本当に資金0円からのスタートなので、新刊も最初は5万円くらいの仕入れから始めて、売れるたびに増やしていった形ですね。
開業の経緯は本当にドラマティックでしたね。
次回は、開業のあと。店の変化や営業方法についてお聞きします。
「消費しない本の『読み』方とライオン堂のこれから」
松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)
1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。