誰からも好かれたいと思う、「いい人」がいます。
これは特別なことではなく、むしろ、いまの日本では誰もが良好な人間関係を築こうと必死になっているように思います。
たしかに、人から好かれたいと思うのは、脳科学的に考えてもごく自然な人間の感情だといえます。
そういう気持ちを持つのは、私たちが社会的な動物として進化してきた証拠でもあるからです。
もちろん私だって、豊かな人間関係に囲まれて暮らしたほうが幸せだということに異論はありません。
けれども、「いい人」を演じてまでつくり上げた人間関係は、はたして本当の人間関係と呼べるのでしょうか?
誰からも好かれたいという純粋な気持ちが、いつの間にか「誰からも好かれなければならない」という強迫観念に変わってしまい、あなたの中に「いい人」という別の人格をつくり出してしまっているのです。
どんな理由があれ、自分を偽る「いい人」は結局のところ、誰からも信用されなくなってしまいます。自分に噓をつきながら、たとえ良好な人間関係をつくれたとしても、「あなたがいなければダメ」と言われるような人間関係をつくることはできないのです。
そもそもこの世の中には、すべての人に好かれる人などひとりもいません。
それは、私にしてもそうです。
どんなに人間的に素晴らしい人でも、その人のことを悪く言う人はいますし、嫌う人は必ずいるもの。これが人間関係の本質ではないでしょうか。
ところが、こうした本質を認めることができない人は意外にも多く、誰からも好かれたい一心で「いい人」を演じてしまい、苦しんでいるのです。
自分の居場所を実感できなくなった人ほど、こういったケースに陥りやすいといえます。
自分を抑えていつも他人の顔色を窺い、嫌われることを悪役や鬼になるようなことと決めつけることにより、自分自身の世界がどんどん小さくなってしまうのです。
このように、自分の世界を小さくしながら生き続けることは、とてももったいない気がします。
そこで、改めて人間関係の本質として「人は誰もが誰かに好かれ、誰かに嫌われる」ということを考えてみてください。
もし、あなたがこれまで「いい人」を演じていたなら、そんな自分を認め、受け入れてあげたうえで、このようにマインドチェンジしてみてください。
「誰からも嫌われない人など、ひとりもいない」
「誰からも嫌われている人も、ひとりもいない」
もし、あなたが「いい人」をやめて100点の自分と出会えたとします。
そんなあなたのことを、ある人は50点と評価するかもしれませんが、なかには「あなたにそんな一面があったんだね」と言って100点の評価をしてくれる人が必ずいるということです。
ですから、あれこれと心配する前に、まず「いい人」をやめたあなたを評価してくれる人が、もっとあなたを評価してくれるにはどうしたらよいかを考えることのほうが重要なのです。
(この連載は、毎週月曜・木曜更新、全6回配信予定です。次回は、12月13日配信予定です)
茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)
1962年東京生まれ。 東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。 専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。 2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』(ともに学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。
作品紹介
「いい人」をやめると、脳がブルブル動き出す!ムダな我慢をあっさり捨てて、自分の人生を生きる茂木式・ポジティブ人生操縦法!
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- 【6】他人任せをやめると、自分も周りも変わっていく
- 【5】「いい人」ではビジネスで成功できない!?
- 【4】“ゲーム理論”で「いい人」の「利得の期待値」を考えてみる
- 【3】「いい人」を演じているとき、脳には負担がかかっている
- 【1】人生を変えたければ、いますぐ「いい人」を卒業しよう!