たった一言が心に刺さってしまい、気持ちがすっかり萎えてしまった。ガクンと落ち込んでしまった、ということもよくあります。
感情は移ろいやすいものであると同時に、いったんある方向に気が向くと、そちらにどんどん向かってしまうという、矛盾した傾向を持っています。つまり、一言イヤなことを言われたとたん感情はマイナス志向に転じ、その後のすべてがイヤな方向に向かってしまうことがあるのです。
そんなときの特効薬が深呼吸です。深く大きく息をする。こんな簡単なことをするだけで、感情は入れ替わり、落ち込みから救われます。
複雑そうに見えて、案外単純。単純そうに見えて、案外複雑。人間って、むずかしいと思えばむずかしく、扱いやすいと思えば扱いやすい。
両面あるなら、「扱いやすい」と考えて、自分を上手にコントロールできる、と思い込んでいるほうが、ずっと生きやすくなりますね。
そう思い込んで、自分が思うように心をコントロールする。これが、達人級の心の扱い方です。
たとえば上司にきつく叱られてパニックになってしまいそうなときは、意識して、深く呼吸してみましょう。たったこれだけのことで、気持ちはスーッと穏やかになって、感情的な反論をしてしまうような失敗も防げるでしょう。
とは言うものの、人前でラジオ体操のように大きく手を広げて、息を吐いたり吸ったりはできません。ふだんから、電車のなかなどでときどき静かに深呼吸をして、あまり目立たないように深呼吸するコツを覚えておくといいでしょう。
医学的には、深呼吸をすると、副交感神経の働きが活発になるので、落ち着き効果が得られるとか、深呼吸を何回かすると、リラックスホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が促されるから、と説明できるのですが、私は、深呼吸で気分がすっきり落ち着いたという実感を得られればそれでいいと思っています。
「深呼吸をしたから、もう平気だ」。そう自分に暗示をかける。それだけでも、効果てきめんのはずです。
仕事の能率が下がってきた、緊張感がゆるんできたというときなども、深呼吸をすると、気持ちがほどよくリフレッシュでき、調子を取り戻せます。
和田 秀樹 (わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。精神科医・教育評論家。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学等を専門とする。受験アドバイザーとしても精力的に活動し、志望校別勉強法の通信教育・緑鐵受験指導ゼミナールを主宰。東京大学をはじめとする難関大学に挑戦する受験生を指導している。映画初監督作品『受験のシンデレラ』がモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞するなど、文化面でも幅広く活躍中。
作品紹介
精神科医として多くの悩みに向き合ってきた和田秀樹先生が、困ったときでも心穏やか解決に向かうための「心のコツ」を教えます。
定価:本体1,200円+税/学研プラス
バックナンバー
- 「笑い」で緊張をほぐす
- いい記憶を「上書き」する
- 一歩、引いてみる
- たくさんほめて、ほめられる人は 心が折れにくい
- 「セルフ・エフィカシー」を高める
- 遠い先のことより 目先のことを考える
- 悩みがあるから、喜びがある。 不安があるから、幸せを味わえる
- 「困った!」と頭を抱えたら、 こう考えてみよう